書面契約
入社時に条件を明確化
規則整備
懲戒・勤怠・休暇を明文化
社保納付
地域ルールも確認
証跡管理
説明・同意・通知を残す
注意 本記事は一般的な実務整理です。中国の労務管理は、都市、業種、雇用形態、現地法人の規模、労働者との合意内容で扱いが変わります。解雇、配置転換、賃金カット、紛争対応などは、現地の人事労務専門家・弁護士への確認を前提にしてください。

1. 中国労務は「後で整える」ほど高くつきやすい

中国拠点を立ち上げるとき、最初は営業、仕入れ、許認可、銀行口座、発票対応が優先され、労務管理は後回しになりがちです。しかし、採用後に契約条件や就業規則を整えようとすると、既存スタッフとの説明、同意、過去運用との整合が必要になり、思った以上に手間がかかります。

中国の労働契約法は、使用者と労働者の権利義務を明確にし、安定した労働関係を作ることを目的としています。企業側から見ると、これは「雇いにくい」という話だけではありません。最初に契約、規則、社会保険、勤怠証跡を整えておけば、後の説明コストや紛争リスクを下げられます。

中国拠点の初期労務では、細かい制度を大量に作るより、まず「誰を、どの会社名義で、どの条件で雇うのか」「勤務時間・休暇・残業をどう記録するのか」「退職時に何を返却し、何を精算するのか」をそろえることが現実的です。

2. 労働契約で最初に確認したい項目

中国で従業員を採用する場合、労働契約は単なる雛形ではなく、後の人事運用の土台になります。役職名、勤務地、賃金、試用期間、勤務時間、秘密保持、競業避止、退職時の引継ぎなどを曖昧にすると、実務で困りやすくなります。

項目 見るポイント 日系企業で起きやすい注意点
雇用主体 中国現地法人、外服会社、派遣会社、駐在員事務所など、誰が雇用主かを明確にする。 日本本社や香港法人が実質管理している場合も、契約主体と指揮命令の関係を整理する。
職務・勤務地 職務内容、直属上司、勤務地、出張・異動の可能性を記載する。 後から営業職を管理職に変える、都市をまたぐ異動を命じる場合は、契約・規則との整合が必要。
賃金・賞与 基本給、手当、賞与、支給日、控除項目、業績連動部分を分けて書く。 「日本本社判断で賞与」とだけ書くと、説明不足になりやすい。評価基準と裁量範囲を残す。
勤務時間・残業 標準労働時間制、総合計算、不定時勤務などの前提を確認する。 管理職だから残業代なし、と単純に扱うのは危険。地域の承認制度や職務実態を確認する。
秘密保持・返却 顧客情報、価格表、図面、アカウント、端末、サンプルの管理を明記する。 退職時のWeChat、クラウド、EC管理画面、社用スマホの返却・権限停止を忘れやすい。

3. 試用期間は「自由に解雇できる期間」ではない

中国の採用実務では試用期間を置くことが一般的ですが、試用期間は企業が自由に契約を終了できる期間ではありません。採用条件に合わないことを理由にする場合でも、募集時の条件、評価基準、業務実績、指導記録などの説明材料が必要になります。

日系企業でよくある失敗は、試用期間中に「何となく合わない」「日本側との相性が悪い」と判断し、記録を残さず終了させようとすることです。試用期間を使うなら、入社時に評価項目を共有し、1か月ごとの面談メモ、改善依頼、本人確認を残す方が堅実です。

01
採用条件を明確化
求人票、職務記述書、面接記録で期待役割を残す。
02
評価項目を共有
売上、事務処理、報告、勤怠、顧客対応などを具体化。
03
途中面談を記録
改善点と期限を伝え、メールや面談記録を保存する。
04
終了判断を慎重に
理由、証拠、通知方法、賃金精算を専門家と確認する。

4. 就業規則は小さくても早めに作る

中国の労働契約法では、使用者が労働報酬、勤務時間、休息休暇、労働安全衛生、保険福利、従業員研修、労働規律などに関わる規則制度を作る場合、労働者の権利義務に関わるものとして一定の民主的手続きや公示・告知が問題になります。

実務上は、最初から大企業並みの規程集を作る必要はありません。従業員が数名の段階でも、勤怠、休暇、残業申請、経費精算、懲戒、情報管理、退職時返却物を1冊にまとめ、入社時に説明・受領確認を取るだけで、後の運用がかなり安定します。

項目 最低限決めること 残したい証跡
勤怠・休暇 出退勤記録、遅刻・早退、年休、病気休暇、出張時の扱い。 勤怠システム、休暇申請、承認履歴。
残業 事前申請の要否、承認者、休日・法定休日の扱い。 残業申請、上司承認、業務指示の記録。
懲戒 警告、減給、解除に至る行為類型と手続き。 規則の受領確認、調査記録、本人説明。
情報管理 顧客情報、価格、図面、SNSアカウント、端末、データ持出し。 貸与物台帳、権限一覧、退職時チェック表。
実務ポイント 就業規則は「作ること」より「説明して、本人が知っている状態にすること」が大切です。入社時説明、改定時説明、社内掲示、電子配布、受領確認をセットで残すと、後で説明しやすくなります。

5. 社会保険・住宅積立金は地域差も見る

中国の社会保険制度は、基本養老保険、基本医療保険、労災保険、失業保険、生育保険などを含みます。社会保険法は、使用者と個人が法に従って社会保険料を納付すること、個人が納付記録や個人権益記録を確認できることを定めています。

一方で、実際の料率、納付基数、住宅積立金の扱い、外国籍社員の手続き、給与計算との連動は都市ごとに運用差が出ます。上海、北京、深圳、広州、蘇州などで拠点を持つ場合は、本社一律の理解ではなく、現地の人事代行会社や社保窓口の最新案内を確認する必要があります。

初期拠点では、給与計算、個人所得税、社会保険、住宅積立金、労働契約、就業規則を別々に管理しがちです。少人数でも、入社月、退職月、試用期間、賞与支給、病休、産休、出張手当の扱いを一覧化しておくと、外部ベンダーとのやり取りが楽になります。

6. 退職・解雇で見落としやすい証跡

中国労務で慎重に扱いたいのが退職・解雇です。本人都合退職なら比較的進めやすい場合もありますが、会社都合、業績不振、職務不適格、重大規律違反などは、理由、手続き、証拠、補償、通知方法を丁寧に確認する必要があります。

特に、営業担当者やEC運営担当者が退職する場合は、顧客リスト、価格表、店舗アカウント、ライブコマース権限、広告アカウント、サンプル、社用端末の返却確認が重要です。退職合意書だけでなく、引継ぎリストと権限停止の記録を残しておくと、後のトラブルを減らせます。

退職時に確認したい項目

  • 退職理由:本人都合、協議解除、会社都合、懲戒解除などの区分を曖昧にしない。
  • 賃金精算:最終給与、未消化休暇、賞与、経費、社会保険の停止月を確認する。
  • 返却物:PC、スマホ、鍵、印章、名刺、サンプル、資料、アカウント権限を一覧化する。
  • 秘密保持:顧客情報、価格、サプライヤー情報、図面、未公開資料の扱いを再確認する。
  • 証跡:通知書、合意書、面談記録、本人署名、電子承認、配送記録を保存する。
注意 会社都合の解除や懲戒解除は、企業側が「正しいと思う理由」だけでは足りないことがあります。就業規則に根拠があるか、本人が規則を知っていたか、事実確認と改善機会があるか、通知・補償の扱いが妥当かを、個別に確認してください。

7. 最小チェックリスト:少人数拠点から始める

最後に、中国現地法人や中国拠点で最初に整えたい項目を、実務用のチェックリストとしてまとめます。

  1. 雇用主体:誰が雇用主か、外服・派遣・現地法人の区分を整理したか。
  2. 労働契約:職務、勤務地、賃金、試用期間、勤務時間、秘密保持を明記したか。
  3. 就業規則:勤怠、休暇、残業、懲戒、情報管理、返却物を入れたか。
  4. 説明・同意:入社時説明、規則受領、改定時通知の証跡を残したか。
  5. 社会保険:都市ごとの納付基数、料率、入退社月の扱いを確認したか。
  6. 評価記録:試用期間、業績不振、改善指導の面談記録を残したか。
  7. 退職対応:賃金精算、返却物、アカウント停止、秘密保持をチェックしたか。
まとめ 中国労務管理は、専門的な制度を一気に作るより、労働契約、就業規則、社会保険、退職時チェックを小さく整えることから始めるのが現実的です。人が増える前に基本の書式と証跡管理を決めておくと、採用スピードを落とさずにリスクを抑えられます。

8. 参考資料(公式・公開情報)