17種
レアアース
元素の総数
約90%
中国の精製・加工
世界シェア(推計)
約60%
日本のレアアース
中国依存度(輸入比率)
2025/4/4
輸出管理強化
施行日(商務部公告18号)

1. 規制の全体像:2025年4月施行の「商務部公告第18号」とは何か

2025年4月4日、中国商務部・税関総署は「商務部公告2025年第18号」を公布し、中重レアアース7系統に対する輸出管理を強化した。対象品目はサマリウム(Sm)・ガドリニウム(Gd)・テルビウム(Tb)・ジスプロシウム(Dy)・ルテチウム(Lu)・スカンジウム(Sc)・イットリウム(Y)の関連品目だ。原鉱石・酸化物・合金・化合物・混合物・磁性材料など、サプライチェーンの複数段階が規制の射程に入る。

この規制は「輸出禁止」ではなく「ライセンス制」だ。輸出者は商務部に輸出許可証を申請し、通関申告書に規制品目である旨を明記する必要がある。許可証の審査には期間・不確実性があり、禁輸でなくとも「いつ届くかわからない」という調達リスクが現実化している。

📌 なぜ「今回」が重要なのか——2010年との違い
  • 2010年の対日禁輸との違い:2010年は日本向けのみの実質的禁輸で短期間に終わった。2025年の措置はグローバルを対象としたライセンス制で、より持続的な管理体制として機能する。
  • 対象が「中重レアアース」に絞られた意味:ネオジム(Nd)など軽レアアースは対象外。しかし中重レアアース(Dy・Tb・Y等)は高性能磁石・半導体・防衛装備に不可欠で、代替が最も困難な元素群だ。
  • 米中関係の文脈:米国の半導体輸出規制への「報復的対抗措置」という色彩があり、政治的解決が難しい。貿易交渉のカードとして継続的に機能する可能性が高い。

2. どの元素が何に使われているか:17種の役割地図

元素(略号)主要用途輸出規制代替難易度
ネオジム(Nd)NdFeBマグネット(EVモーター・HDD・スピーカー)対象外(軽REE)極めて高い
ジスプロシウム(Dy)NdFeBの高温特性向上添加剤(EV・軍事装備)規制対象極めて高い
テルビウム(Tb)磁石添加剤・蛍光体・ソナー規制対象極めて高い
イットリウム(Y)半導体プラズマエッチング治具・蛍光体・レーザー規制対象高い
セリウム(Ce)半導体CMP(化学機械研磨)スラリー・光学ガラス研磨対象外(軽REE)中程度
ランタン(La)半導体ゲート絶縁膜(高誘電率材料)・光学レンズ対象外(軽REE)中程度
プラセオジム(Pr)Nd-Pr系マグネット(Nd代替・コスト低減)対象外(軽REE)中程度
サマリウム(Sm)SmCoマグネット(高温・防衛・航空宇宙)規制対象極めて高い
ガドリニウム(Gd)MRI造影剤・中性子吸収(原子炉)・磁性素材規制対象高い
スカンジウム(Sc)固体酸化物燃料電池(SOFC)・アルミ合金強化(航空機)規制対象極めて高い

3. EVの依存構造:「走るレアアース」の実態

EVへのレアアース依存は、主に駆動モーターの永久磁石を通じて発生する。主流のPMSM(永久磁石同期モーター)は、1台あたり約2〜3kgのNdFeBマグネット(ネオジム・鉄・ボロン系)を使用する。このマグネットの性能を高温環境でも維持するために、ジスプロシウム(Dy)とテルビウム(Tb)が添加剤として必須となっている。

問題は「Ndは対象外なのでEVモーター磁石は大丈夫」という誤解だ。実際には、DyとTbが規制対象となることで、高性能グレードの磁石(特に産業用・高温環境用)の調達に影響が及ぶ。乗用EVの通常グレードでは代替設計の余地がある一方、高出力EV・産業用ロボット・航空機電動化では代替が極めて困難だ。

🚗
EV乗用車(大量生産)
主要元素Nd, Pr(Dy/Tb添加)
磁石使用量2〜3kg/台
規制対象元素の役割高温特性向上(Dy, Tb)
代替可能性Dy低減設計・LFP採用で部分回避
リスクレベル
🏭
産業用ロボット・高出力EV
主要元素Nd, Dy, Tb(高配合)
磁石使用量10〜数十kg/台
規制対象元素の役割高負荷・高温環境での性能保持
代替可能性代替設計が困難・長期開発必要
リスクレベル
🌬️
洋上風力タービン
主要元素Nd, Dy, Tb(大型直接駆動)
磁石使用量数百〜数千kg/基
規制対象元素の役割塩害・高温環境での耐久性
代替可能性誘導モーター方式で回避可能(性能妥協)
リスクレベル

4. 半導体の依存構造:製造プロセスに潜む「見えない依存」

半導体サプライチェーンへのレアアース依存は、完成品ではなく製造プロセスの複数段階に深く埋め込まれている。多くの企業が「レアアースを直接買っていない」と思っていても、サプライチェーンの上流に確実に存在する。

① CMPスラリー(化学機械研磨):セリウム酸化物

半導体ウェーハの平坦化工程で使われるCMPスラリーの研磨材として、酸化セリウム(CeO₂)が広く使用されている。セリウムは現時点では輸出規制対象外の軽レアアースだが、中国の精製シェアが高く、調達の集中リスクは存在する。1枚のウェーハに数十工程のCMPが施される先端半導体では、CMPスラリーの安定供給が生産継続の前提条件だ。

② プラズマエッチング治具:イットリウム(Y)

半導体製造の核心工程であるドライエッチング(プラズマエッチング)装置の内壁・治具材料として、酸化イットリウム(Y₂O₃)セラミックスが広く使われている。プラズマによる腐食に対する耐性が極めて高く、Appled MaterialsやLam Researchなどの主要装置メーカーが採用している。イットリウムは今回の規制対象元素であり、先端半導体製造装置の消耗部品に直接影響が及ぶ

③ 高誘電率ゲート絶縁膜:ランタン系酸化物

5nm以下の先端ロジック半導体では、トランジスタのゲート絶縁膜に酸化ランタン(La₂O₃)系の高誘電率(High-k)材料が使用されている。ランタンは現時点では規制対象外だが、調達の中国集中という構造的リスクは変わらない。

図1|半導体製造プロセス別レアアース依存度(編集部評価)
公開情報・業界レポートをもとにした編集部評価。規制対象元素を赤、対象外を青で表示。
プラズマエッチング治具(Y)
極高
CMPスラリー(Ce)
光学ガラス研磨(Ce・La)
中高
High-kゲート絶縁膜(La)
蛍光体・フォトマスク(Y・Gd)
赤=規制対象元素、青=規制対象外(ただし調達集中リスクあり)、橙=一部規制対象

5. 防衛装備の依存構造:「安全保障問題」化した資源

防衛装備へのレアアース依存は、米国防総省・英国防省・日本防衛省が公式に懸念を表明してきた安全保障問題だ。米国の試算では、F-35戦闘機1機の製造に約417kgのレアアースを使用するとされている。

装備品使用レアアース用途中国規制対象
F-35・戦闘機 Nd, Dy, Sm, Y アクチュエーター・ジャイロ・レーダーシステム磁石 一部対象
PAC-3ミサイル Sm, Co, Nd SmCoマグネット(高温・高速アクチュエーター) Sm対象
イージス艦レーダー Nd, Dy, Y フェイズドアレイアンテナ・磁性体部品 Dy・Y対象
ドローン・UAV Nd, Dy, Tb 軽量高出力モーター(推進・ジンバル) Dy・Tb対象
潜水艦ソナー Tb, Dy(超磁歪材料) 音響トランスデューサー 規制対象
夜間暗視装置 La, Ce, Gd 光学ガラス・蛍光体 Gd対象

日本の防衛省・防衛装備庁は、主要装備品のレアアースサプライチェーン調査を実施済みだが、その詳細は非公開だ。防衛省関係者からは「短期的には備蓄と同盟国間融通で対応できるが、長期的なサプライチェーン再構築が不可欠」という認識が共有されている。

⚠️ SmCoマグネットの特殊性
サマリウム・コバルト(SmCo)マグネットは、NdFeBより高温・高放射線環境での性能が優れており、航空宇宙・防衛・宇宙開発で不可欠な素材だ。サマリウム(Sm)が今回の規制対象となったことは、防衛産業にとって最も深刻なシグナルの一つだ。SmCoの代替材料は実質的に存在せず、備蓄の積み増しと国内製錬能力の確保が急務となっている。

6. 日本の調達実態と現在地

日本はレアアースの約60%を中国から輸入しており、2010年の対日禁輸以降、調達先多角化を国家戦略として進めてきた。その結果、豪州のLynas(ライナス)社からの調達拡大、米国マウンテン・パス鉱山からの輸入増加、マレーシアにおけるLynas加工施設の活用などが進んでいる。しかし課題は「精製・分離」の工程だ。

KEY INSIGHT
鉱山を「脱中国化」しても、精製・分離工程の中国依存が続く限り、真の意味でのリスク低減は達成されない。Lynas(豪州)が採掘した鉱石を、かつてマレーシアで分離精製していた際も、技術・設備の一部は中国由来だった。精製技術の自立化こそが、レアアース安全保障の本質的課題だ。

7. 代替調達の現実:「脱中国」の進捗と限界

🇦🇺 オーストラリア
Lynas Rare Earths
世界最大の中国外レアアースメーカー。マウント・ウェルドで採掘、マレーシア(Kuantan)で精製。日本との長期供給契約あり。軽REE(Nd-Pr)が主力。中重REEの分離能力は限定的。
調達可能性:高 中重REE:限定的
🇺🇸 アメリカ
MP Materials(マウンテン・パス)
カリフォルニア州のマウンテン・パス鉱山を運営。採掘能力は回復しているが、重レアアースの分離精製能力は2026年時点でまだ限定的。国防総省の補助金で国内精製設備を建設中。
調達可能性:中 中重REE:低
🇨🇦 カナダ
Vital Metals・Neo Performance Materials
Vital Metalsがノースウエスト準州でREE採掘開始。Neo Performance MaterialsがエストニアのSilametで分離精製能力を保有。欧州向けには最も現実的な非中国ルートの一つ。
調達可能性:中 中重REE:限定
🇯🇵 日本
都市鉱山リサイクル・備蓄
DOWAホールディングス・住友金属鉱山等がHDDや廃EV磁石からのREEリサイクルを拡大。経済産業省はREEの国家備蓄を保有。ただし国内精製能力は中国の数%以下にとどまる。
備蓄あり:中期対応可 国内精製:低
🇬reenland グリーンランド
Kvanefjeld・Tanbreez プロジェクト
世界最大級のREE埋蔵量を持つが、環境規制・政治問題(デンマーク・米国との関係)で開発が遅延。長期的なポテンシャルはあるが、2028年以前の商業生産は困難。
調達可能性:低(長期)
🇯🇵🇺🇸 技術代替
Dy低減磁石・フェライト磁石・SMC材料
日立金属(現プロテリアル)等がDy使用量を70%以上削減した磁石技術を実用化。フェライト磁石(REEを使わない)への設計変更も一部の低負荷用途で選択肢になる。ただし高性能用途では性能妥協が必要。
開発段階:実用化済 高性能用途:限界あり

8. JX金属・住友金属との接点:素材株投資家への示唆

レアアース輸出規制は、日本の非鉄素材メーカーへの影響という観点でも重要だ。住友金属鉱山 vs JX金属の比較記事でも論じたように、両社はレアアース問題に対して異なるポジションを持つ。

住友金属鉱山はニッケル・コバルト系電池材料が主力だが、子会社を通じてEV向け磁石材料の一部調達にも関与しており、レアアースの価格高騰は原材料コストに影響する側面がある。一方、JX金属は半導体ターゲット材において、イットリウム(Y)を含む治具材料との間接的な接点がある。装置メーカーがY系セラミックスの代替材を模索する動きは、JX金属が手がける高純度金属素材の需要増加に寄与する可能性もある。

9. 3シナリオで読む2026〜2028年

図2|レアアース供給リスクの3シナリオ(2026〜2028年、編集部推計)
編集部推計。政治情勢の変化により大きく変動する可能性がある。
楽観:規制が緩和傾向、供給安定。基本:ライセンス制維持・一部遅延。悲観:追加規制強化・禁輸に近い状態。

最も可能性が高い基本シナリオ(推定確率55%)では、ライセンス制度が維持されたまま運用される。一部の輸出は審査遅延で滞るが、完全禁輸には至らない。企業は「いつ届くかわからない」という不確実性コストを負いながら、代替調達の検討・備蓄積み増しを進める期間となる。

悲観シナリオ(25%)では、米中摩擦の激化を受けて中国が追加的な規制強化に踏み切る。特定品目・特定国向けの事実上の輸出停止に近い状態が一時的に発生し、先進国のEV・防衛産業に大きな混乱をもたらす。この場合、Lynas株・REE関連ETF、および日本のリサイクル技術保有企業の株価が大きく反応する。

レアアース 輸出規制 ジスプロシウム イットリウム ネオジム磁石 EV 半導体 防衛装備 代替調達 米中デカップリング Lynas 住友金属鉱山