380店超
中国本土MUJI店舗数(2025年度末推計)
日本企業最大級の中国小売展開
1,900億円
東アジア事業売上(FY2025推計)
全社比約28%・営業利益率7%台
6,500店+
名創優品(MINISO)グローバル店舗数
中国国内だけで3,500店超
▲50%
中国での値下げ累計幅(2014〜2021年)
3度の値下げで日本価格の半値水準に

1. なぜ良品計画の中国事業は「難しい」のか——ポジショニングの罠

良品計画の中国事業を一言で表すなら「挟み撃ち」です。下方からは、MUJIのデザイン哲学を徹底的にコピーしつつ価格を10分の1にまで圧縮した名創優品(MINISO)が急速に店舗網を拡大。上方では、国潮(グオチャオ)ブームに乗った中国プレミアムブランドや、体験価値を武器とするポップアップブランドが都市部の若年層を吸収しています。

かつてMUJIは中国の中産階級にとって「ちょっと頑張れば買える、センスある日本ブランド」という絶妙なポジションを占めていました。2010年代前半の上海・北京では、MUJIの紙袋を持ち歩くこと自体がステータスでした。しかしその「ちょうどいいプレミアム感」こそが、ローカル競合の最大の標的になってしまいました。

MUJIが直面する競争環境は、アパレルにおけるファーストリテイリングとは構造的に異なります。ユニクロはLifeWear(究極の普段着)という機能的価値を磨き、価格帯を明確に設定することで競合との差別化を維持できました。対してMUJIの強みである「無駄を排した生活の質」という価値観は、数十元の雑貨からホテルまで横断する幅広いカテゴリーにわたるがゆえに、価格帯が曖昧で競合にコピーされやすいという弱点を同時に内包しています。

📌 「ちょうどいいプレミアム」の落とし穴

ユニクロが「機能+低価格」の軸で戦うのに対し、MUJIは「デザイン+生活哲学」の軸で戦います。この軸は模倣されやすく、また消費者の所得水準が上がるにつれ「プレミアムとして見られにくくなる」という宿命を持ちます。日本でMUJIが「普段使い」になりつつあるように、中国でもその地位変化が起きています。

2. 中国事業の業績推移——2005年進出から「東アジア1,900億円」体制まで

成都1号店(2005年)から拡大の10年へ

良品計画が中国に本格進出したのは2005年、成都のイオンモールに出店した1号店が起点です。初期は「なぜ日本人がこんなに高いものを中国で売るのか」と現地から懐疑的に見られていましたが、2008年北京五輪後の中産階級台頭と「日系ブランド=品質・センス」という認知の広まりとともに急速に評価が高まりました。

2010年代に入ると出店ペースが本格加速。2013年には中国本土の店舗数が100店を突破、2018年には250店を超えました。東アジア事業(主に中国・香港・台湾・韓国)は良品計画の成長エンジンとなり、FY2018〜FY2019には売上構成比25%以上を占めるまでに拡大しました。

コロナ禍と「業績の踊り場」

転換点となったのはコロナ禍(2020〜2022年)です。中国の厳格なゼロコロナ政策のもとでMUJIの主力チャネルである商業施設型店舗は断続的な休業を余儀なくされました。3年間にわたる規制が経営に重くのしかかり、FY2021では東アジア事業の営業利益率が3〜4%台まで低下。良品計画は中国で初めて本格的な「整理縮小局面」を経験することになります。

ゼロコロナ終了後の2023年以降は回復傾向にあるものの、消費者心理の冷え込みや消費降級(ダウングレード消費)の波が続いており、復元の速度はゆっくりとしています。FY2025の東アジア事業は売上1,900億円(推計)、営業利益率7%台と改善しているものの、ユニクロが中国で維持するとされる15%超の利益率と比べると大きな開きがあります。

図1:良品計画 東アジア事業 売上高・営業利益率推移(FY2020〜FY2025推計) 出所:有価証券報告書・各社公表データを基に編集部作成

店舗網の現状:380店の意味

2025年度末時点の中国本土店舗数は推計380店超。ピーク時(約400店)からは若干の縮小ですが、依然として日本の小売企業として中国最大規模の一角を占めます。地理的分布は上海・北京・広州などの1線都市に旗艦店を持ちつつ、成都・重慶・武漢・西安といった2線都市にも標準店を展開する2層構造です。近年は「Compact MUJI」と呼ばれる小型フォーマット(約200〜400㎡)の導入により、賃料コストの高い都市核心部や空港・鉄道駅への出店を加速させています。

3. 3度の値下げ戦略(2014〜2021)——収益性を犠牲にした価格競争への応答

なぜMUJIは値を下げ続けたのか

良品計画は2014年から3度にわたる大規模な価格改定(実質的な値下げ)を中国で実施しました。その背景には、日中間の為替変動・輸送コスト・関税を反映した結果として中国の販売価格が日本の定価を30〜50%上回っていたこと、そしてその価格差が「割高」として消費者に強く意識され始めていた事実があります。

  • 2014年:第1回値下げ——100品目超を対象に最大20%の値下げ。為替是正と市場拡大を狙った戦略的判断
  • 2016〜2019年:第2・第3回値下げ——毎年のように繰り返される価格改定。2019年には年2回の値下げを実施し、主力の収納・繊維製品を中心に累計20〜30%の引き下げ
  • 2021年:追加値下げ——消費降級の波を受け、日用品カテゴリーを中心に再度の価格引き下げ。一部品目では日本価格を下回る水準に

この結果、2026年現在、MUJIの中国での実勢価格は日本の定価と概ね同水準〜やや割安の水準に収斂しています。一見、消費者にとってはプラスに映りますが、この値下げは同時に「中国でのプレミアム感」という最大の差別化資産を自ら毀損する行為でもありました。

💴 値下げの功罪:短期効果と長期ダメージ

  • 短期的効果:価格敏感層を引き込み来客数を維持。一時的な売上回復に貢献
  • 長期的ダメージ①:「MUJIが値下げするほど苦しいブランド」という認知が定着
  • 長期的ダメージ②:価格体系を下げたことで、原価圧縮による品質低下が出やすくなる
  • 長期的ダメージ③:値下げがMINISOとの「底辺へのレース」を加速させる悪循環

4. 名創優品(MINISO)——MUJIのデザイン哲学を10分の1の価格で量産する「破壊者」

MINISOとは何者か

名創優品(MINISO)は2013年、広州で創業した中国のライフスタイル雑貨チェーンです。創業者の葉国富が採用したビジネスモデルは明快でした——MUJIの「シンプルで機能的なデザイン」という審美観を徹底的に「参照」しつつ、価格をRMB10〜50元(約200〜1,000円)に抑え込む低価格ファストリビング業態です。店舗デザインも、白・木目・ベージュという無印のシグネチャーカラーを連想させる構成を採用しました(その後、赤ベースのカラーに変更)。

MINISOの急拡大ペースは驚異的です。2013年の創業からわずか7年で世界100カ国以上に展開。2020年にはニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場。2026年現在、グローバル店舗数は6,500店超に達し、うち中国国内だけで3,500店超という圧倒的な規模を誇ります。

なぜMINISOはMUJIに脅威なのか

MINISOはMUJIの直接競合にはなりません——価格帯が10倍以上異なるためです。しかし問題は、MINISOが「MUJIを買いたいが高いから買えない層」のニーズを完全に満たしてしまうことにあります。かつてMUJIが取り込んでいた「生活の質にこだわる月収15,000〜25,000元の都市中産階級」の一部が、MINISOで代替できるカテゴリー(収納用品・タオル・文具・コスメ)ではMINISOを選ぶようになったのです。

さらに深刻なのは、MINISOが「ポップカルチャーとのコラボ」という新軸を持ち込んだことです。ディズニー、サンリオ、ポケモン、漫威(Marvel)等の IPとのコラボ商品を矢継ぎ早に投入するMINISOは、MUJIが得意としない「トレンド速度」で若年層を取り込んでいます。MUJIが「変わらない良さ」を訴求するブランドである以上、この「変わり続けるMINISO」とは根本的に相容れない競争軸が生まれています。

図2:主要ライフスタイル雑貨チェーンの中国店舗数比較(2026年推計) 出所:各社公表データ・業界調査を基に編集部作成

もうひとつの競合:网易严选(NetEase Yanxuan)のODMモデル

MINISOと同様にMUJIを直接的に脅かすのが、网易(NetEase)が2016年に立ち上げた網絡厳選(ヤンシュアン)です。最大の特徴は「ODM(Original Design Manufacturer)モデル」の徹底活用——MUJIや無印良品等の有名ブランドに製品を供給している工場と直接契約し、同一仕様・あるいはそれに近いスペックの製品を「ブランド料ゼロ」で販売するという価格破壊ビジネスです。「大牌の工場、没有大牌的价格(有名ブランドと同じ工場、ブランド代なし)」というスローガンは中国の若年層に強烈に刺さりました。

实际、MUJIの供給企業の一部が同時に网易严选にも商品を供給しているとされており、「同じ工場の同じような製品が半額以下で買える」という状況がオンラインでは日常化しています。これはMUJIにとって、価格帯の優位性だけでなく「品質ソースの独自性」という主張すら危うくなるという深刻な問題を提起しています。

評価軸 MUJI(良品計画) MINISO(名創優品) 网易严选
中国の価格帯(主力) ¥500〜¥3,000円相当 ¥200〜¥1,000円相当 ¥200〜¥2,000円相当
ブランドポジション 日本の上質ライフスタイル ポップ&トレンド雑貨 工場直売・品質主義
中国店舗数 380店超 3,500店超 EC専業(実店舗なし)
製品ライフサイクル 長期(定番主義) 超短期(IP系・季節限定) 中期(定番+季節)
デジタル・EC強度 WeChat・天猫・Douyin展開 Douyin強化・ライブコマース EC完全特化
体験型要素 ホテル・書店・カフェ連携 ほぼなし オンラインのみ
ターゲット層 25〜45歳 都市中産階級 18〜30歳 Z世代中心 25〜40歳 品質重視層

5. 「無印良品」商標問題——中国で自社ブランド名を使えないという逆説

商標問題の経緯

良品計画が中国事業で直面している問題の中で最も構造的に深刻なのが、「無印良品」という商標をめぐる法的紛争です。

事の起こりは2000年代初頭に遡ります。良品計画が中国で本格展開する以前に、北京の繊維品メーカー「棉田紡織品有限公司」が中国国内で「無印良品」という漢字商標を繊維・衣料品カテゴリーで登録していました。良品計画は2015年にこの商標の無効を求めて中国の商標局に申請しましたが、2019年に北京知識産権法院は棉田側の商標を有効と認定。さらに2021年の再審でも良品計画は敗訴し、中国における「無印良品」の繊維品カテゴリーへの使用権を失いました。

判決では、良品計画に対して棉田が被った損害として62.5万元の支払いを命じました。金額は大きくありませんが、問題の本質は財務的損失ではありません。20年以上をかけて世界中で育ててきた「無印良品」というブランド名を、最大の成長市場である中国で特定カテゴリーに使えないという事実こそが重大です。

棉田の反撃:「無印良品」ストアの存在

この商標問題はさらに複雑な展開を見せています。棉田紡織品は商標を取得した後、独自に「無印良品」ブランドを冠した店舗を一部地域で展開しています。中国の消費者が「無印良品」という漢字を目にしたとき、それが日系の「MUJI(良品計画)」なのか、中国ローカルの「棉田・無印良品」なのかを識別することは容易ではありません。良品計画は中国でのブランド表記を「MUJI」ローマ字主体に切り替えることを余儀なくされ、店舗の看板や商品タグの変更に相当のコストを投じました。

⚠️ 商標問題が示す中国展開の教訓

「中国に進出する前に、自社ブランドの中国語表記(漢字・ピンイン双方)を先に商標登録せよ」——これは2000年代から繰り返し唱えられてきた鉄則です。良品計画のケースは、先行者利益を逆に奪われた典型例として、中国展開を検討するすべての日本企業のリスク管理リストに入れておくべき事例です。なお、「ヤクルト」「無印良品」に続き、現在も複数の日系ブランドが中国で商標をめぐる訴訟を抱えていることに注意が必要です。

6. ホテル・書店・カフェ——「体験型MUJI」という反撃の軸

MUJIホテルの戦略的意味

価格競争でMINISOに勝つことも、ECコストで网易严选に対抗することも難しいなかで、良品計画が中国で打ち出した独自戦略が「体験型MUJIエコシステム」の構築です。その象徴が、2018年に深圳と北京で同時に開業した「MUJI HOTEL(無印良品酒店)」、そして2021年に開業した上海店です。

MUJIホテルは単なる宿泊施設ではありません。MUJIが「ライフスタイルの提案者」であるというブランドメッセージを最も濃密に体現するフラッグシップ体験空間です。客室の全インテリア・寝具・アメニティ・家具がMUJI製品で統一され、宿泊客は「MUJIのある暮らし」を24時間体験することができます。宿泊料金は比較的リーズナブルに設定されており、「高額なラグジュアリーホテルではなく、MUJI哲学に共感する人が試せる場所」という位置づけです。

MUJI BOOKS・MUJI DINER・MUJI CAFEの複合展開

大型旗艦店を核に、書籍販売(MUJI BOOKS)・レストラン(MUJI DINER)・カフェ(MUJI CAFÉ & MEAL)を組み合わせた「複合体験型店舗」の展開も進んでいます。上海や北京の旗艦店では、週末に書籍関連のイベントや料理教室を開催し、単なる物販を超えたコミュニティ形成に取り組んでいます。

この戦略は競合に対して一定の差別化効果を持っています。MINISOはホテルも書店も持てません。网易严选はECに特化しているため物理的な体験空間を提供できません。「モノを売る場所」から「MUJI哲学を体験する場所」への転換は、MUJIが中国で生存するための最も合理的な戦略方向性です。しかし、この体験型投資は固定費の増大も意味しており、景気変動に対して脆弱な構造を持つことも見逃せません。

図3:中国ライフスタイル市場における競合ブランドのポジショニング比較(6軸評価) 出所:編集部作成(各社の公表情報・市場調査を基にした定性スコア)

7. 日本企業への示唆——「中間価格帯のデス・ゾーン」と「体験型ニッチ」という二択

中国市場における「中間価格帯のデス・ゾーン」

良品計画の事例が示す最も普遍的な教訓は「中国の中間価格帯は最も居心地の悪い場所になりつつある」という事実です。コロナ禍以降の消費降級と、国内ブランドの品質向上・デザイン力向上が重なった結果、外資ブランドが「ちょうどいい価格帯」で提供してきた価値は急速に国産代替に侵食されています。

この構造は食品・化粧品・家電・アパレル・雑貨を問わず共通しています。価格を下げれば国内競合と「底辺へのレース」になり、価格を上げれば「なぜ国産でいいものが買えるのにわざわざ外資を選ぶのか」という問いに答えられなくなる——このジレンマこそが、多くの日本企業が中国で感じている閉塞感の正体です。

生存の条件:プレミアム化か体験型ニッチか

このデス・ゾーンから脱出するルートは二つに絞られます。第一は、価格帯を明確に上げ「ジャパンプレミアム」を正面から訴求するブランドとして再定義すること。第二は、MUJIがホテルや書店で試みているように、物理的・精神的な体験を価値の中核に置き、ECや安価な競合が代替できない「場所性」を武器にすることです。

良品計画の現在の戦略はこの第二の方向性に向かっています。しかし、体験型投資は固定費が重く、景気後退や中国消費の長期停滞が続く場合には財務上の重荷になります。第15次5カ年計画(2026〜2030)が「高品質発展」と「内需主導」を政策重点に掲げるなか、中国消費市場がどの方向に向かうかによって、良品計画の体験型戦略の成否も決まっていくでしょう。

📋 良品計画の事例から導く「中国小売生存の3条件」

  1. 商標・知財の先行防衛:中国語ブランド名・ローマ字表記・ロゴの全カテゴリーでの商標登録を進出前に完了させる。良品計画の商標問題は2000年代初頭に防げたはずの失敗
  2. 価格帯の「旗を立てる」決断:中間価格帯に留まるのか、プレミアムに上げるのかを明確化する。曖昧な中間ポジションは消費降級下で最も先に侵食される
  3. 体験価値の独占:MUJIホテル・MUJI BOOKSのように「ECや安価な競合が物理的に再現できない体験」を店舗の核に置く。「モノを売る」から「世界観に滞在してもらう」への転換が中国小売の次の競争軸