業界・企業研究
2026.05.04 中国ビジネスナビ編集部

ニトリはなぜ中国で苦戦しているのか?
100店舗から78店舗へ減った理由

「お、ねだん以上。」で日本の家具・生活雑貨市場を変えたニトリは、中国でも大きな成長余地があると見られてきた。しかし中国大陸の店舗数は前期末100店舗から、2026年5月時点で78店舗へ縮小している。なぜ、価格競争力を武器にしたニトリが中国で苦戦しているのか。背景には、不動産不況、消費低迷、大型店の採算悪化、EC競争、そして中国の生活様式とのズレがある。

100店
前期末の中国大陸店舗数
78店
2026年5月1日時点の中国大陸店舗数
25店
2026年3月期計画で示された中国退店数
15%減
中国大陸売上減少への言及

1. ニトリ中国事業の現状:100店舗から78店舗へ

ニトリホールディングスの公式サイトによると、2026年5月1日現在、ニトリグループの海外店舗は台湾73店舗、中国大陸78店舗、マレーシア14店舗、シンガポール6店舗、タイ13店舗などに広がっている。中国大陸78店舗という数字だけを見ると、依然として海外事業の中核であることは間違いない。しかし、流通ニュースが報じたように、前期末には中国大陸で100店舗を構えていた。つまりニトリは、中国で成長を急ぐ局面から、採算を見ながら店舗網を絞る局面へ入ったことになる。

流通ニュースによれば、2026年3月期の出店計画見直しでは、中国大陸で出店4店舗に対して退店25店舗、21店舗減の79店舗を計画していた。さらに似鳥昭雄会長は、中国大陸について不景気で売上が15%下がり、半分以上の店が赤字だと説明したと報じられている。これは一時的な調整というより、中国の家具・生活雑貨市場でニトリの勝ち方そのものを見直す局面だ。

重要なのは、店舗数が減ったからといって、中国市場から撤退するという話ではない点だ。ニトリにとって中国は人口規模、都市化、生活用品需要、家具買い替え需要を考えれば、依然として大きな市場である。ただし、以前のように「出せば伸びる」市場ではなくなった。成長市場であっても、立地、家賃、売場面積、商品構成、ECとの役割分担を間違えると、赤字店舗が増える。ニトリの中国縮小は、成長の失敗というより、過去の出店モデルを修正するための痛みと見るべきだ。

図1|ニトリ中国大陸店舗数の見え方
ニトリHD公式・報道をもとに編集部整理
前期末
100店
計画見直し後
79店
2026年5月
78店
店舗数の縮小は、中国事業の撤退ではなく、不採算店舗を整理して収益性を優先する動きと読める。

2. 苦戦の最大要因は中国の不動産不況

ニトリの中国苦戦を考えるうえで、最初に見るべきなのは中国の不動産市場である。家具・インテリア需要は、住宅購入、引っ越し、新築マンションの引き渡し、リフォーム、結婚、家族形成と強く結びつく。中国では長年、不動産開発が消費の大きなエンジンだった。新しいマンションを買えば家具が必要になり、家具を買えば寝具、カーテン、収納、キッチン用品も必要になる。ニトリのような生活総合店にとって、不動産の好況は強い追い風だった。

しかし近年の中国では、不動産開発企業の資金繰り悪化、住宅価格の下落、若年層の雇用不安、消費者心理の冷え込みが続いている。住宅を買わない、引っ越さない、家具を買い替えないという消費行動が広がれば、家具店の来店頻度は落ちる。特に大型家具は購入単価が高く、景気への感応度が高い。景気が悪いと、消費者はソファやベッドを買い替えるより、今あるものを長く使う。小物は買っても、大型家具は先送りする。

ニトリの中国事業は、まさにこの構造変化の影響を受けている。日本では、ニトリは郊外型店舗、家族世帯、車での来店、まとめ買い、引っ越し需要に強い。一方、中国の都市部では、賃貸住まい、狭い住居、オンライン購入、即時配送、低価格比較が強く、郊外型・大型店への来店動機が弱まりやすい。不動産市場が好調なら大型店も集客しやすいが、不動産が冷え込むと、固定費の重さが一気に目立つ。

3. 「お、ねだん以上。」が中国で刺さりにくくなった理由

ニトリの強みは、価格と品質のバランスである。日本では、手頃な価格で統一感のある家具・生活雑貨をそろえられることが大きな魅力になった。しかし中国では、この価値提案が以前ほど単純には通用しない。理由は、中国のECとローカルサプライチェーンが非常に強いからだ。

中国では、淘宝、天猫、京東、拼多多、抖音電商などで、家具・収納・寝具・生活雑貨が大量に販売されている。消費者はスマホで価格を比較し、レビューを読み、短動画で使用感を確認し、数日以内に商品を受け取る。さらに、中国には家具・雑貨の製造拠点が多く、似たデザインの商品が低価格で出回りやすい。ニトリが日本で持つ「安くて品質がよい」という優位性は、中国ではローカル企業やEC事業者との競争にさらされる。

また、中国の消費者は「安い」だけでなく、「映える」「小紅書で見た」「狭い部屋に合う」「すぐ届く」「返品しやすい」といった要素を重視する。ニトリの商品は実用性に強いが、中国の若年層は、デザイン性、SNS映え、個性、短期間での模様替えも重視する。日本的なシンプル・機能的・無難な商品が、中国の都市部若者に必ずしも強く刺さるとは限らない。

比較軸日本でのニトリの強み中国での壁
価格品質に対して安いEC上にさらに安い類似商品が多い
店舗大型店で一式購入しやすい都市部では来店コストと家賃負担が重い
商品機能的で失敗しにくいSNS映えや個性でローカルブランドと競争
購買体験実物を見て安心して買える中国ではEC・短動画・口コミ購買が強い

4. 大型店モデルの採算悪化:家賃・建築費・人件費の重さ

流通ニュースは、ニトリHDが出店計画を見直した理由として、採算の合わない店舗の退店を報じている。似鳥会長は国内出店についても、建築費が高く採算が合わないと述べたとされる。これは中国でも同じ構造を持つ。家具店は売場面積が必要で、在庫も大きく、配送・組み立て・返品対応にもコストがかかる。売上が伸びている時期には規模の大きさが強みになるが、客数が落ちると固定費が利益を圧迫する。

中国の商業施設は、かつて外資ブランドを誘致することで集客力を高めてきた。しかし消費低迷が長引くと、商業施設側もテナント側も採算を慎重に見るようになる。大型店舗を出すには、家賃、内装、物流、従業員、在庫、販促のすべてに先行投資が必要だ。中国で100店舗規模まで広げたニトリにとって、不採算店舗を放置すれば、赤字が拡大する。だからこそ、店舗数を減らしてでも収益性を優先する判断が必要になった。

さらに、家具・生活雑貨はECとの役割分担が難しい。大型家具は実物確認が重要だが、小物や収納用品はオンラインで買いやすい。店舗がショールーム化しても、実際の購入がECに流れれば、店舗単体の採算は悪くなる。ニトリは店舗とECを連携させる必要があるが、中国ではこの分野でローカル企業のスピードが速い。店舗を持つこと自体が強みである一方、店舗を持つことが重荷にもなる。

図2|ニトリ中国事業を圧迫する5つの要因
編集部分析
不動産不況
大型店固定費
EC価格競争
SNS消費対応
中高
商品現地化
ニトリの課題は一つではなく、景気・店舗・EC・商品・SNS導線が重なっている。

5. 競合はIKEAだけではない:中国ローカル企業とECが強い

ニトリの中国事業を語るとき、よく比較されるのはIKEAである。IKEAも中国で大型店モデルを見直し、小型店や都市型店舗、ECとの連携を進めている。これは、家具小売全体が中国で同じ課題に直面していることを示している。ただし、ニトリにとって本当の競合はIKEAだけではない。中国のローカル家具ブランド、EC専業ブランド、ライブコマース、短動画で売る生活雑貨ブランドが、消費者の選択肢を広げている。

中国では、若い消費者が家具を「長く使う耐久財」としてだけでなく、「気分を変える生活アイテム」として買う傾向がある。低価格で短期間に買い替える収納、デスク周り用品、照明、布製品、キッチン用品は、ECとの相性が良い。ニトリが得意とする機能的な商品は価値があるが、EC上で似た商品が大量に出ると、価格差や配送スピードで比較される。

さらに、中国では小紅書や抖音での発見が購買に直結しやすい。部屋づくりの投稿、ワンルーム収納術、賃貸DIY、ペットとの暮らし、在宅勤務スペースなど、生活シーン別の提案が強いブランドほど支持されやすい。ニトリが中国で再成長するには、商品を並べるだけでなく、中国の生活シーンに合わせた提案型コンテンツを増やす必要がある。

6. ニトリは中国で何を変えるべきか

ニトリが中国で再び成長するには、店舗数を増やす前に、店舗の役割を再定義する必要がある。大型店はすべての都市で必要ではない。むしろ、都市部では小型店、ショールーム型店舗、EC受け取り拠点、人気カテゴリー特化型店舗のほうが採算に合う可能性がある。家具を大量に展示する大型店より、寝具、収納、キッチン、子ども用品、ワンルーム向け家具など、生活課題を絞った店舗のほうが来店理由を作りやすい。

商品面では、中国の住宅事情に合わせた小型・多機能・省スペース商品が重要になる。中国都市部では、賃貸住まい、単身世帯、若い夫婦、ペット世帯、在宅勤務者が増えている。日本で売れるサイズや色、収納設計がそのまま中国で最適とは限らない。中国では、より狭い部屋に合う、組み立てやすい、配送しやすい、SNSで見せやすい、短期間で買い替えやすい商品が求められる。

デジタル面では、ECとSNSの一体化が不可欠だ。ニトリは単に天猫や京東で商品を売るだけでなく、小紅書での部屋づくり提案、抖音での短動画、WeChatでの会員化、店舗在庫とオンライン在庫の連動を強化する必要がある。中国の消費者は、店頭で見て、スマホで比較し、SNSで口コミを確認し、ECで購入する。店舗とECを分けて考えるのではなく、一つの購買導線として設計することが重要だ。

改善テーマ具体策狙い
店舗不採算大型店を整理し、小型・都市型・カテゴリー特化型へ固定費を抑え、来店理由を明確化
商品省スペース家具、賃貸向け収納、SNS映え雑貨を強化中国都市部の生活様式に合わせる
EC天猫・京東・抖音・小紅書と店舗を連動比較購買と口コミ購買に対応
価格低価格だけでなく、品質保証・返品・配送を訴求ローカル低価格品との差別化
ブランド「日本品質」より「中国の暮らしを便利にする」訴求へ現地生活者の課題に近づく

7. 日本企業への示唆:勝ちパターンの輸出だけでは足りない

ニトリの中国苦戦は、日本企業にとって重要な教訓を持つ。日本で成功した勝ちパターンを中国へ持ち込むだけでは、長期的な成長は難しい。中国では、消費者の購買スピード、ECの強さ、SNSの影響力、商業施設の変化、価格比較の厳しさが日本とは異なる。日本で「安くて良い」と評価された商品も、中国では「もっと安いものがある」「もっと映えるものがある」「もっと早く届くものがある」と比較される。

特に小売企業は、店舗展開のスピードよりも、店舗ごとの採算、ECとの連動、現地商品の開発、SNSでの見え方を重視すべきだ。中国は大きい市場だが、広い市場ではない。都市ごとに所得、住宅事情、消費者層、競合、商業施設の強さが違う。全国で同じ店舗モデルを広げるより、都市ごとに店舗サイズと商品構成を調整する必要がある。

ニトリが中国で100店舗から78店舗へ減らしたことは、単なる後退ではない。むしろ、中国事業を続けるために、無理な拡大を止め、収益性を優先する判断とも言える。日本企業が中国で学ぶべきなのは、撤退か拡大かの二択ではなく、どの都市で、どの客層に、どの店舗サイズで、どの商品を、どのデジタル導線で売るかを細かく再設計する姿勢である。

8. 結論:ニトリの中国苦戦は「中国市場の終わり」ではなく「店舗モデルの転換」

ニトリが中国で苦戦している理由は、ブランド力がないからではない。むしろ、ニトリは中国でも認知度を持ち、生活雑貨・家具の総合提案に強みがある。問題は、中国の消費環境が変わり、従来の大型店・出店拡大型モデルが以前ほど機能しなくなったことだ。不動産不況で家具需要が弱まり、ECとローカルブランドが価格競争を強め、若年層の購買行動がSNS中心へ移った。その中で、店舗数を増やすだけでは利益が出にくくなった。

100店舗から78店舗への縮小は、ニトリにとって苦い調整である。しかし、それは中国市場の終わりではない。むしろ、収益性の低い店舗を整理し、中国の生活者に合った商品・店舗・EC導線へ組み替えるための出発点である。ニトリが次に中国で成長できるかどうかは、「日本で成功したニトリ」をそのまま再現するのではなく、「中国の暮らしに合わせたニトリ」を作れるかにかかっている。