1. 商談の手応えを合意と混同しない
中国企業との商談では、前向きな発言、スピード感のある提案、会食やチャットでの親密なやり取りがあっても、価格、発注量、支払条件、販売地域、知的財産、返品責任まで合意したとは限りません。商談後は「好感触だった」という感想を外し、決まったことと決まっていないことを文書で分けます。
特に「検討する」「問題ないと思う」「社内で進める」といった表現は、承認権限を持つ人の正式な同意か、担当者の意向かを確認します。相手の役職だけで決裁権を推測せず、誰の承認が残っているかを次回の論点にします。
2. 当日から翌営業日に意思決定メモを作る
商談の記憶が新しいうちに、自社向けの意思決定メモを作ります。録音や発言録をそのまま共有するのではなく、取引判断に影響する論点へ変換します。相手へ送る議事確認には、自社内部の評価や撤退基準を含めません。
商品、対象地域、次回日程など、双方が同じ意味で確認した内容。
価格、数量、独占、支払、返品など、回答または交渉が必要な内容。
見積書、会社資料、許認可、販売計画、契約案など、判断根拠になる資料。
粗利、信用、法務、供給体制など、自社が次段階へ進むための条件。
3. 議事録を論点別に書く
発言者順の議事録は会話の再現には向きますが、決定事項を探しにくくなります。実務では、商流、商品、価格、販促、物流、契約、次回対応という論点別に整理します。同じ言葉でも双方の定義が違う場合は、確認した意味を併記します。
| 論点 | 議事録に残すこと | 曖昧なまま進めないこと |
|---|---|---|
| 商流 | 契約主体、販売先、再販売の有無 | 代理店・卸・運営代行の役割混同 |
| 価格 | 通貨、税、物流、値引き負担 | 店頭価格だけの口頭合意 |
| 供給 | 発注単位、納期、検品、欠品対応 | 需要予測を確約数量と扱うこと |
| 販促 | 素材、広告費、承認、表現責任 | 販売目標を成果保証と扱うこと |
| 契約 | 準拠文書、署名者、更新・終了条件 | チャット上の了解だけで着手すること |
4. 宿題には担当者・期限・証拠を付ける
「資料を確認する」「価格を再検討する」だけでは、次回までに何が終わればよいか分かりません。宿題には、提出する人、確認する人、期限、提出形式、完了と判断する証拠を付けます。日本側と中国側の両方に担当者を置き、翻訳や転送を誰が行うかも決めます。
| 宿題 | 担当 | 期限 | 完了の証拠 |
|---|---|---|---|
| 販売計画の確認 | 中国側営業責任者 | 次回会議前 | 対象チャネル・商品別の計画表 |
| 供給条件の確認 | 日本側SCM担当 | 見積提出前 | 発注単位・納期・検品条件 |
| 契約論点の整理 | 双方の契約担当 | 契約案交換前 | 未合意条項の一覧 |
5. 契約前に五つの曖昧さを止める
- 契約主体:商談した会社と、発注・送金・販売する会社が同一か。
- 権限:価格、独占、広告費、返品を承認できる人は誰か。
- お金:通貨、税、送金費用、値引き、未回収時の対応はどうするか。
- 情報・権利:商標、画像、顧客情報、営業資料をどこまで使えるか。
- 終了条件:最低購入、更新、在庫、アカウント、制作物を終了時にどう扱うか。
契約主体、支払者、販売地域のいずれかが確認できない場合は、サンプル発送や販促素材の提供を自動的に次段階へ進めず、確認責任者へ戻します。
6. 次回会議は未合意事項から設計する
次回会議の議題を会社紹介や前回説明の繰り返しにしないため、未合意事項を優先順位順に並べます。会議前に資料を交換し、当日は「説明」ではなく「選択肢の比較と決定」に時間を使います。相手が追加したい論点を受け付ける期限も設けます。
議題ごとに、決めたいこと、選択肢、判断者、必要資料を一行で示します。判断者が参加できない場合は、会議の目的を情報収集へ変更し、正式決定の日程を別に置きます。
7. 社内決裁は一ページで比較できる形にする
社内決裁では相手企業の魅力だけでなく、取引を始める条件と止める条件を同じ紙面に置きます。賛成材料だけを集めず、不明点と代替案を明記することで、決裁者が追加調査の必要性を判断できます。
| 決裁欄 | 記載内容 |
|---|---|
| 取引目的 | どの商品を、どの顧客・地域・チャネルへ届けるか |
| 利益条件 | 価格、原価、物流、販促、回収まで含む採算条件 |
| 相手の役割 | 販売、在庫、広告、CS、報告の責任範囲 |
| 残るリスク | 未確認事項、最悪時の損失、専門家確認の要否 |
| 次の判断 | 契約へ進む、条件付きで進む、追加調査、見送る |
8. まとめ
中国企業との商談後は、前向きな雰囲気を合意と扱わず、合意事項、未合意事項、宿題、決裁条件へ分解します。相手へ送る議事確認と、自社の意思決定メモを分け、次回会議では未合意事項を決めます。契約主体、権限、お金、権利、終了条件が確認できるまで、自動的に次段階へ進めない運用が重要です。