1. 越境ECと一般輸入:規制の「壁の高さ」の違い

化粧品・健康食品を中国に持ち込む方法は主に「一般輸入(正規輸入)」と「越境EC(跨境電商)」の2つある。規制の厳しさが大きく異なるため、日本企業が中国展開を検討する際にはまずこの違いを理解することが前提となる。

✓ 越境EC(跨境電商)
個人購入特例の範囲内で販売可
「個人が海外から購入する」という建て付けで流通するため、中国国内の輸入化粧品規制(衛生許可等)の適用が緩和される部分がある。ただし商品タイプ・金額上限・カテゴリによって適用範囲が異なる。天猫国際・JD Worldwideはこのモデル。
⚠ 一般輸入(正規輸入)
NMPA登録・CIQ検査等が必要
中国国内のドラッグストア・実店舗で販売するルート。特殊化粧品(日焼け止め・育毛・染毛等)はNMPA注册(登録)が必要で、審査期間は1〜2年、費用も数百万円規模になる。越境ECと比べてハードルが大幅に高い。
Key Point
越境ECは「一般輸入に比べて規制が緩い」部分があるが、完全に規制なしではない。特に2021年以降、普通化粧品でも越境EC向けのNMPA電子備案が必要になるケースが拡大しており、「何も手続きなしで売れる」という理解は危険だ。

2. 化粧品のNMPA分類と越境EC向け対応

中国のNMPA(国家薬品監督管理局)は化粧品を「普通化妆品(一般化粧品)」と「特殊化妆品(特殊化粧品)」の2つに分類している。越境ECでの販売規制はこの分類によって大きく異なる。

普通化妆品(一般化粧品)

スキンケア・メイクアップ・ボディケア・ヘアケアなど特殊な効能を訴求しない化粧品。越境ECでは、天猫国際やJD Worldwide等の認可プラットフォーム経由で販売する場合、NMPA電子備案(オンライン届出)を完了していることが出品条件となっている(2021年の化粧品監督管理条例改正以降)。

特殊化妆品(特殊化粧品)

染毛・パーマ・育毛・日焼け止め・美白(祛斑美白)・脱毛・デオドランドの7カテゴリが該当する。これらは越境EC経由であってもNMPA注册(登録証取得)が原則として必要で、審査期間は6ヶ月〜1年半、費用も商品あたり数十〜百万円単位になる。越境ECの「緩和措置」が適用されにくいカテゴリだ。

分類主な商品例越境EC手続き費用目安期間目安
普通化妆品 保湿クリーム・ファンデ・シャンプー・ボディローション NMPA電子備案(届出) 1商品5〜20万円(代理店経由) 1〜3ヶ月
特殊化妆品 日焼け止め・育毛剤・白髪染め・美白クリーム NMPA注册(登録証取得) 1商品50〜200万円 6〜18ヶ月
新原料使用 新規成分を使用した全カテゴリ 新原料登録 + 製品届出/登録 追加数十〜数百万円 +6〜24ヶ月

3. NMPA電子備案(普通化粧品)の実務フロー

普通化粧品の越境EC向け電子備案は、正しい手順で進めれば1〜3ヶ月で完了できる。以下が標準的なフローだ。

1
成分チェック・禁止成分の確認
NMPAの「已使用化妆品原料目录(使用可能原料リスト)」と「禁止・制限成分リスト」に照合する。日本で承認されている成分が中国では禁止されているケースがあるため、最初にここで確認する。
2
必要書類の準備
製品処方(全成分・配合量)、安全性データ(毒性試験等)、製造国の販売証明書(日本では薬機法適合証明)、製品写真・ラベル案、ブランドロゴ商標証明など。中国語への翻訳が必要な書類もある。
3
中国現地代理人(責任代理商)の選定
外国ブランドが中国NMPAに直接届出を行うには中国国内の「責任代理商」が必要。代理店の選定と契約が先行する。費用は商品あたり5〜20万円が相場(翻訳・申請代行込み)。
4
NMPAポータルへの電子申請
「国家药监局化妆品注册备案管理系统」に申請書類をアップロード。システムエラーや書類不備への対応が必要になることが多く、代理店のサポートが重要になる。
5
備案番号の取得・出品準備
審査が完了すると「备案号(備案番号)」が発行される。この番号を商品ページに掲載することで天猫国際・JD Worldwideへの正規出品が可能になる。番号の有効期限管理も重要。

4. 日本製品でよく引っかかる禁止・制限成分

日本で合法的に使用されている成分が、中国では禁止・制限リストに掲載されているケースがある。これを知らずに出品申請すると、申請が却下されるだけでなく、すでに販売中の商品が強制的に削除されるリスクもある。

⚠ 重要注意
以下はあくまで「よく問題になる成分の例」であり、規制内容は随時改定される。実際の販売前には必ずNMPA最新版の禁止・制限リスト(2023年版以降)で確認し、中国の専門家・代理店に照合を依頼すること。
成分名日本での用途中国での扱いリスクレベル
ハイドロキノン(対苯二酚) 美白剤 化粧品への使用禁止(医薬品としてのみ許可) 禁止
レチノール(ビタミンA)高濃度 エイジングケア・美容 濃度上限規制あり(0.3%以下)。超過は禁止 制限
一部のパラベン類 防腐剤 使用可能だが濃度上限あり。複数種組み合わせに注意 制限
オキシベンゾン(サンスクリーン剤) 日焼け止め成分 使用濃度上限あり。特殊化粧品(日焼け止め)として登録が別途必要 制限
一部のα-ヒドロキシ酸(AHA) 角質ケア グリコール酸等は濃度・pH条件の規制あり 制限
植物由来の新規成分 各種機能性成分 「既使用原料リスト」未掲載の場合、新原料登録が必要(審査6〜24ヶ月) 要確認
幹細胞成分(一部) エイジングケア訴求 動物・ヒト由来幹細胞成分は原則禁止 禁止

5. 健康食品(保健品・サプリメント)の越境EC特例

健康食品・サプリメントは化粧品よりも規制が複雑で、中国での扱いは「保健品(国内市場向け許可制品)」と「普通食品(越境EC経由の一般食品)」で大きく異なる。

「保健品」としての販売:ハードル極めて高い

効能・効果を訴求する「保健品(蓝帽子)」として中国国内で正規販売するには、国家市場監督管理総局(SAMR)への注册(登録)が必要で、審査期間2〜4年・費用数百万円規模という高いハードルがある。日本企業が越境ECで最初から「保健品」として販売することは現実的でない。

「普通食品」として越境EC経由で販売:現実的な入口

健康への効能・効果を表示せず、食品として扱う形で越境EC経由で販売するのが日本企業の現実的な入口だ。この場合、「効能・効果・医療的表現」を一切使わない商品説明が必須となる。「免疫力アップ」「血糖値改善」「関節の痛みを和らげる」といった表現は保健品としての表示とみなされ、規制対象になる。

越境EC健康食品の合法的訴求パターン:
○「ビタミンCが100mg含まれています」(成分含有量の表示)
○「毎日の食事で不足しがちな栄養素をサポート」(一般的な栄養補給表現)
✗「免疫力を高める」「疲労回復効果がある」「血糖値を下げる」(効能効果表現→禁止)

GACC(税関総署)へのブランド・工場登録

食品カテゴリ全般(健康食品含む)を中国に輸出する日本企業は、輸出企業・輸入者・生産工場のGACC(海关总署)への登録が必要だ(2022年の食品輸入規制強化以降)。登録が済んでいない製品は通関・プラットフォーム出品が拒否されるケースがある。

6. 典型的な失敗パターンと回避策

失敗パターン原因回避策
出品後に商品が削除される NMPA備案なしで出品、または禁止成分を含む商品を販売 出品前に備案番号取得を完了する。成分チェックは専門代理店に依頼
備案申請が何度も却下される 書類の翻訳品質不足・成分表の記載形式がNMPA要件に合っていない NMPA申請実績のある中国側代理人を選ぶ。最初の1社で成否が大きく変わる
日焼け止めを一般化粧品として申請してしまう 「日焼け止め=特殊化妆品」という分類を把握していない 販売前に必ず商品カテゴリの分類を専門家に確認する
サプリの商品説明で効能表現を使い、出品停止になる 日本語サイトの表現をそのまま中国語に翻訳して使用 中国語版の商品説明は成分含有量・栄養情報のみに絞り込む
新成分が未登録で申請が止まる 既使用原料リストにない成分を配合した商品を申請 配合成分を事前にリストと照合。新原料登録が必要な場合は計画段階で対処

7. 費用・期間・必要書類のまとめ

手続き対象商品費用目安(1商品)期間目安
NMPA電子備案(普通化妆品)一般スキンケア・メイク等5〜20万円1〜3ヶ月
NMPA注册(特殊化妆品)日焼け止め・美白・育毛等50〜200万円6〜18ヶ月
新原料登録新成分使用商品数十〜数百万円(追加)+6〜24ヶ月
食品GACC登録(企業・工場)食品・健康食品10〜30万円3〜6ヶ月
保健品注册効能訴求の健康食品数百万〜1,000万円超2〜4年

必要書類の標準セット(普通化妆品 NMPA電子備案)

  • 製品処方書(全成分・INCI名・配合量)
  • 安全性評価報告書(毒性試験・刺激性試験等)
  • 製造国の販売証明書・GMP証明書
  • 商標登録証明(中国または国際登録)
  • 製品ラベル・外装デザイン(中国語版)
  • 責任代理商の営業許可証・委任状
  • 検査報告書(微生物・重金属等)
実務アドバイス:NMPA備案・注册の代理店選びは、実績件数・担当者の専門知識・コミュニケーション速度の3点で選ぶ。費用だけで選ぶと書類品質が低く却下が繰り返されるケースが多い。日系企業向け実績のある代理店を優先することで、日本の書類フォーマットへの理解度が違う。
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