2026年第一四半期(Q1)の中国健康食品・サプリメント市場は、業界団体推計ベースで総市場規模1,187億元(前年同期比+8.9%)を記録しました。化粧品市場が1,220億元(+5.9%)で歴史的マイルストーンを達成したことが注目される中、健康食品市場はより高い成長率でその規模に迫っており、「中国の次の大消費カテゴリ」としての地位を確固たるものにしています。
本稿では、中国保健食品協会・サードパーティECデータを用いてQ1 2026の健康食品市場をチャネル別・ブランド別に解剖。特に「養生Z世代(养生Z世代)」の台頭と春節礼品市場の急拡大、そして抖音(Douyin)ライブコマースの健康食品カテゴリにおける異次元の成長率を詳細に分析します。
1. 総括:中国健康食品市場の「新フェーズ」入りを告げるQ1データ
中国の健康食品・サプリメント市場は、2020年のコロナ禍以降に急速に拡大した「健康意識の高まり」を背景に、安定的な成長軌道を維持してきました。しかし2026年Q1データが示すのは、単なる「コロナ特需の継続」ではなく、「养生Z世代の購買主体化」と「春節礼品市場の高級化」という2つの構造的新エンジンによる、より深層の変化です。
2026年1月29日の春節(蛇年)を控えた年始商戦は、健康食品ギフトセット(礼盒)の需要を前年同期比+28%超押し上げ、Q1全体の力強い成長を下支えしました。
図1:中国健康食品市場規模の推移(2016〜2026年Q1換算) 出所:中国保健食品協会・業界団体データを基に作成
2016〜2025年 年間市場規模と成長率(業界団体推計)
2016年:2,988億元(+13.5%)→ 2018年:3,481億元(+3.1%、直販規制の影響)→ 2019年:3,200億元(▲8.1%、業界整備)→ 2020年:3,532億元(+10.4%、コロナ健康需要)→ 2022年:3,927億元(+2.0%)→ 2024年:4,383億元(+5.3%)→ 2025年:4,682億元(+6.8%)。規制整備と構造変化を経て、市場は「量から質」への転換点を迎えています。
2. 「养生Z世代」と春節礼品特需:Q1を押し上げた2大新エンジン
养生Z世代(18〜35歳の健康意識層)の台頭
2026年Q1の最も注目すべき構造変化は、健康食品購買者における若年層(18〜35歳)の比率が約48%に達したという点です。かつて「中高年・富裕層」の市場とされた健康食品が、Z世代・ミレニアル世代の日常消費アイテムへと進化しています。この変化の背後にあるのは:
- 「養生(ようせい)文化」の若年層浸透:伝統中医学(TCM)的な健康観が抖音(Douyin)・小紅書(RED)のコンテンツを通じてZ世代に再解釈・再文脈化され、「现代养生(モダン養生)」として流行。プロバイオティクスや漢方系サプリが「おしゃれな健康習慣」として消費されている。
- 「熬夜水(夜更かし対策ドリンク)」「抗糖化(抗糖化)」「助眠(睡眠サポート)」:抖音・小紅書上での機能性訴求コンテンツが爆発的に拡散し、特定の成分(アシュワガンダ、コラーゲン、GABA等)への関心が急速に高まっている。
- 自己投資意識の向上:「お金は健康に使う」という価値観の浸透。プレミアム価格帯(300元超)の健康食品への若年層の支出が増加。
春節礼品市場の高額化:「健康」は最高の贈り物
2026年の春節前(1月)の健康食品ギフトセット(礼盒)売上は前年同期比+28.3%と急拡大。特に「高端礼品(プレミアムギフト)」セグメントでは、コラーゲン・燕の巣(燕窩)・高品質プロバイオティクスを組み合わせた500元〜2,000元超の礼盒が飛ぶように売れました。かつて「保健品は怪しい」というイメージを持っていた高齢の親世代も、「科学的根拠のある」外資系ブランドの商品なら受け入れるという変化が起きており、越境ECで購入できる欧米・豪州産サプリのギフトセット需要が特に旺盛でした。
3. チャネル分析:抖音の「健康コンテンツ特需」と越境ECの加速
図2:2026年Q1 主要チャネル別 健康食品GMV成長率(前年同期比) 出所:業界推計データを基に作成
抖音(Douyin):+34.8%の突出した成長——健康コンテンツとライブコマースの化学反応
Q1 2026の最大のサプライズは、抖音(Douyin)健康食品カテゴリのGMV成長率+34.8%です。化粧品チャネルの抖音成長率(+14.13%)の倍以上のスピードで伸びており、その背景には「健康情報コンテンツ」との親和性の高さがあります。抖音では医師・栄養士・フィットネストレーナーを中心とした「健康系KOL」が急増しており、「この成分があなたの〇〇を改善する」という科学的・擬似科学的コンテンツが莫大なトラフィックを生み出しています。視聴者が動画の「信頼」を基に即購入するというライブコマースの特性が、健康食品カテゴリと特に相性が良く、コンスタントな高成長が続いています。
越境EC(Tmall Global + JD Worldwide):+16.8%——外資系サプリ需要の底堅さ
天猫国際(Tmall Global)・京東国際(JD Worldwide)を合算した越境EC健康食品GMVは+16.8% YoYと、オンラインチャネル全体平均(+12.4%)を上回る伸びを記録。Swisse(豪州)、Blackmores(豪州)、Doctor's Best(米国)、NOW Foods(米国)などの外資系ブランドが、越境EC経由での信頼性・品質保証を武器に中国消費者の支持を獲得しています。「海外ブランド=品質の証明」という消費者心理は、健康食品カテゴリでは化粧品以上に強固です。
天猫(国内):+9.4%。旗艦店運営の重要性は不変
天猫(Tmall)健康食品GMVは+9.4%と安定成長。中高年・富裕層を中心とした「信頼できるブランドを定価で購入する」層は天猫旗艦店を主な購買チャネルとして継続利用しており、老舗ブランドの売上基盤として機能し続けています。
オフライン(ドラッグストア・健康食品専門店):+4.1%。デジタルシフト加速
オフラインチャネルは+4.1%と辛うじてプラスを維持しましたが、EC全体(+12.4%)との差は拡大する一方です。ドラッグストア(薬妝店)は処方薬との相乗効果を打ち出した「健康管理型店舗」への転換を進めており、単品サプリの販売から「健康相談+商品提案」のコンサルティング型モデルへの移行が生き残りのカギとなっています。
4. カテゴリ別分析:コラーゲン・プロバイオティクス・スポーツ栄養が「三強」
図3:2026年Q1 カテゴリ別 健康食品EC GMV構成比 出所:業界推計データを基に作成
コラーゲン・美容サプリ:+42.7%——「食べる美容」のメインストリーム化
最も高い成長率を記録したのはコラーゲン・ヒアルロン酸(HA)・美容系サプリカテゴリで、前年同期比+42.7%。华熙生物(Huaxi Biotech)のような機能性成分メーカーがDTC(Direct-to-Consumer)ブランドを立ち上げて急成長しており、「医療グレードの成分を日常的に摂取する」というコンセプトが高価格帯(300〜800元)製品の需要を牽引しています。「インナービューティー(内服美容)」と健康維持の融合は、化粧品市場との顧客層オーバーラップを生み出しており、美容ブランドと健康食品ブランドの競争領域が重なりつつあります。
プロバイオティクス:+31.6%——「腸活」が中国市場でも定着
プロバイオティクス(益生菌)は+31.6%と高成長を維持。「腸内環境改善→免疫力向上→全身の健康」というストーリーが抖音・小紅書での健康情報コンテンツを通じて深く浸透しており、粉末タイプ・ゼリータイプなどの「摂取しやすい形状」の商品開発も需要を後押ししています。
スポーツ栄養:+24.9%——フィットネスブームに乗る高成長
プロテインパウダー・EAA(必須アミノ酸)・クレアチンなどのスポーツ栄養カテゴリは+24.9%。中国における「健身(フィットネス)文化」の急速な普及を背景に、特に男性若年層の需要が急拡大しています。欧米ブランド(Optimum Nutrition、MyProtein等)が抖音のフィットネス系KOL経由で浸透しています。
5. 主要EC 健康食品TOP15ブランドランキング:汤臣倍健の王座 vs 越境EC外資の逆襲 vs 新興国産ブランドの急台頭
図4:2026年Q1 主要ECプラットフォーム 健康食品TOP15ブランド GMV(流通総額・億元) 出所:業界推計データを基に作成
| 順位 | ブランド | Q1 2026 GMV | 前年同期比 | Q1 2025順位 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 汤臣倍健 By-Health | 28.5億元 | — | 1位 → |
| 2 | Swisse(スイス)🇦🇺 | 19.8億元 | +24.3% | 3位 ↑ |
| 3 | 养生堂 Yangshengtang | 16.2億元 | +7.6% | 2位 ↓ |
| 4 | 諾特蘭徳 Nuterland | 14.8億元 | +52.3% | 8位 ↑↑ |
| 5 | 康恩贝 Conba | 12.6億元 | ▲2.4% | 4位 ↓ |
| 6 | Blackmores(澳佳宝)🇦🇺 | 11.3億元 | +21.7% | 7位 ↑ |
| 7 | Centrum(善存 Pfizer)🇺🇸 | 9.8億元 | +13.5% | 6位 ↓ |
| 8 | GNC🇺🇸 | 9.2億元 | +4.8% | 5位 ↓ |
| 9 | 华润三九 CR Sanjiu | 8.6億元 | +3.1% | 9位 → |
| 10 | Doctor's Best🇺🇸 | 8.1億元 | +38.9% | 14位 ↑↑ |
| 11 | 无限极 Infinitus | 7.4億元 | ▲9.2% | 10位 ↓ |
| 12 | 合生元 Biostime(H&H)🇦🇺 | 7.2億元 | +16.3% | 11位 ↓ |
| 13 | 华熙生物 Huaxi Biotech | 6.8億元 | +58.4% | 圏外 ↑↑ |
| 14 | 同仁堂 Tongrentang | 6.4億元 | +4.2% | 12位 ↓ |
| 15 | NOW Foods🇺🇸 | 6.1億元 | +11.8% | 13位 ↓ |
※■外資系・越境EC ■中国ローカルブランド 出所:業界推計・主流ECプラットフォームデータ集計
汤臣倍健(By-Health):28.5億元で「断トツ首位」を堅守
中国国内健康食品市場のリーダー、汤臣倍健(By-Health)が28.5億元で首位を継続。自社ブランド「健力多(Viartril-S)」「移動の力」などの機能別サブブランドを展開しつつ、天猫・京東・抖音の三大プラットフォームでの存在感を維持。特に春節礼盒シーズンにプレミアムギフトセットを強化した戦略が奏功しました。
外資系(豪州・米国)サプリの明確な復権
Swisse(+24.3%・3位→2位)、Blackmores(+21.7%・7位→6位)、Doctor's Best(+38.9%・14位→10位)と外資系ブランドが軒並み高成長を記録。「海外で製造された、第三者機関が品質保証した製品」という訴求が越境EC経由で強力に機能しています。日本企業にとっても「Made in Japan」の品質ブランドは同様の訴求力を持つ可能性があります。
諾特蘭徳(Nuterland)の衝撃:+52.3%で4位に急浮上
最大のサプライズは国産新興ブランド「諾特蘭徳(Nuterland)」の+52.3%・8位→4位という急成長です。2019年創業の比較的新しい会社でありながら、抖音ライブコマースと小紅書インフルエンサーマーケティングを徹底活用し、「科学的処方+シンプルパッケージ+コスパ」を武器に若年層市場を席巻。同ブランドの急成長は、確立されたチャネル力より「デジタルマーケティング能力」が勝敗を分ける新時代の健康食品市場の本質を示しています。
无限极(Infinitus):▲9.2%——マルチレベルマーケティングモデルの黄昏
かつて中国最大規模の健康食品直販会社だった无限极(Infinitus、李錦記グループ傘下)が▲9.2%でランクを落としています。2019年の業界規制強化以降、マルチレベルマーケティング(MLM/直销)に依存した健康食品ビジネスモデルは構造的な縮小が続いており、ECを通じた直接販売への転換が課題となっています。
6. 構造的トレンド:「医研コラボ」「コラーゲン経済」「プレミアム礼品化」
①「医研コラボ(医疗机构×研究机构 コラボ)」による信頼性向上
中国消費者の健康食品に対する最大の懸念は「本当に効くのか」という有効性・安全性への疑念です。これを克服するため、有力ブランドは医療機関・大学研究室との共同開発・エンドース契約を積極的に締結。「〇〇大学と共同研究」「中国医学科学院推奨成分配合」といった表記が購買決定の後押しとなっており、この「医研コラボ」モデルは日系製薬・健康食品メーカーが中国市場でポジションを取る際の有効な戦略フレームになり得ます。
②「コラーゲン経済」:美容×健康の融合市場の膨張
化粧品ブランドがコラーゲン配合サプリを発売し、健康食品ブランドが美容成分配合のスキンケアを展開する「美健融合」トレンドが加速しています。この動きは化粧品市場と健康食品市場の境界を溶かしており、Estée LauderやShiseidoといった化粧品大手が健康食品セグメントに参入する可能性を示唆しています。日本では「機能性表示食品」として整備されたカテゴリが中国市場でも形成されつつあります。
③「プレミアム礼品化」:健康食品が超高額ギフト市場を侵食
燕の巣(燕窩、ツバメの巣)・冬虫夏草(Cordyceps)・高品質コラーゲン礼盒が1セット2,000〜5,000元という価格で取引される「超高額礼品市場」が形成されています。かつて高額ギフトといえば酒類(バイジュウ)・タバコ・お茶が定番でしたが、「健康は最高の贈り物」という価値観の浸透により、健康食品がこの高額ギフト市場に本格参入しています。
💡 日本企業への示唆
中国健康食品市場の成長は、日系製薬・健康食品メーカーにとって大きな機会です。「Made in Japan」の品質ブランド力は越境EC経由で強力に機能します。特に:①機能性表示が科学的に証明された製品、②日本の医療・研究機関との提携を前面に出した訴求、③抖音・小紅書での健康系KOLとの連携——この3点を揃えたブランドが、外資系サプリの中で次のSwisse・Blackmoresになれる可能性があります。
7. 結論:「健康の民主化」が生む巨大市場と、日本企業が勝てる3つの条件
2026年Q1の中国健康食品市場が描く未来像は明確です。市場規模はまだ化粧品市場に近い水準ですが、化粧品との違いは「购买频率(購買頻度)の高さ」と「リピート率の強固さ」にあります。一度習慣になった健康サプリは、景気変動への耐性が高く、ブランドロイヤルティが形成されやすいという特性を持ちます。
「养生Z世代」の台頭は、今後10〜20年にわたって中国健康食品市場を支え続ける強固な需要基盤の形成を意味します。抖音ライブコマースと越境ECの組み合わせは、日本企業が「現地法人なし」でも中国市場に参入できる現実的なルートを提供しています。課題はブランディング・KOL活用・規制対応の3点ですが、これらを乗り越えた企業には莫大なリターンが待っています。