4.9兆元
中国ライブコマース
市場規模(2025年)
2023
ライブコマース
専門規制施行年
連帯
事業者・KOL・
MCN三者の責任形態
最大×5
虚偽広告に対する
広告主ペナルティ倍率

「KOLに任せた」では済まない時代になった

2023年5月施行の「互聯網広告管理办法」改正と、2022年施行の「网络直播营销管理办法」により、ライブコマースにおける法的責任の所在が明確化された。これ以前は「KOLが個人で言ったこと」という論理が通用する余地があったが、現在はブランド(広告主)・MCN・KOL(主播)の三者が連帯して責任を負う仕組みが法律上確立されている。

日本企業が中国の代理店やMCNと「KOL施策」として委託契約を結んだ場合でも、商品ブランドとして配信に登場する以上、配信内容の広告表現について広告主責任を免れることはできない。「現地の代理店がやったこと」は言い訳にならない。

⚠ 重要な認識転換
ライブ配信は「インフルエンサー投稿」でなく「リアルタイム放送広告」として規制される。発言の一言一言が広告法の適用対象となる。

ライブ配信中のリスク発言:どこが問題か

以下は、実際の施行事例・行政指導で問題視されたカテゴリに基づく分類である。自社の過去配信や現在の台本と照合してほしい。

発言タイプ具体例該当条文・リスク
効果保証発言「使えば必ず痩せる」「1週間で効果が出る」広告法第28条(虚偽広告)・保健食品規制
最上級・比較最優表現「業界No.1」「日本一売れている」「全国最安値」広告法第9条(禁止用語)
限定・煽り表現「残り3個だけ」(在庫操作あり)「今だけ特別価格」(常時同価格)電商法第17条(虚偽プロモーション)
無許可医療・健康強調「医師も推奨」「治療効果がある」広告法第16条(医薬品・健康表現の許可制)
未開示のPR表示KOLが「個人の感想」として紹介(実際は有料案件)互聯網広告管理办法第9条(PR表示義務)
国家権威引用「政府推奨」「国家認定」(根拠なし)広告法第9条(禁止表現)
科学的根拠の誇張「臨床試験済み」「大学研究で証明」(未検証)広告法第11条(証拠要件)

これらの発言が問題になるのはKOLだけではない。商品提供・費用負担・台本提供のいずれか一つでも行っていれば、そのブランドは広告主として同等の責任を問われる。代理店経由であっても例外ではない。

ライブ配信における責任分担の実態

三者(事業者・MCN・KOL)が連帯責任を負うとはいえ、実際の行政処罰ではまず広告費用の負担者・商品の販売者が標的になる。以下の構造を把握しておく必要がある。

事業者(ブランド)
商品提供・費用負担・台本確認
広告主として第一責任。規制当局が最初に照準を合わせる
MCN(代理店)
配信管理・KOL手配・品質監督義務
監督義務違反で連帯責任。違反の見逃しも責任対象
KOL(主播)
発言・表現の直接責任
資格登録義務・ブラックリスト登録・プラットフォーム停止
プラットフォーム
配信審査・違反報告義務
审核義務の不履行でペナルティあり

特に注意が必要なのが「台本を渡していない」というケースだ。台本がなくてもKOLが当該商品について発言した内容は、事業者が商品・費用を提供している限り広告として扱われる。むしろ台本がないことで表現の管理ができず、NG表現が混入するリスクが高まる。

MCN契約に潜む3つの落とし穴

日本企業が中国のMCNと締結する契約には、法的リスクを見逃す構造的な問題が存在する。経営者として確認すべき3点を挙げる。

落とし穴①:「成果保証」条項が自社の広告責任を作り出す

「売上XX万元保証」「フォロワー獲得XX人保証」といった条項は、KOLが成果を出すためにどんな発言をするかを担保しない。MCNが売上を確保するためにKOLに過激な訴求をさせるインセンティブを生む構造になっており、その発言の責任は商品提供者(日本ブランド)に帰属する。成果保証はリスクを買っている行為と認識すべきだ。

落とし穴②:配信内容の事前確認権限が契約に盛り込まれていない

多くの日本企業のMCN契約では、配信台本・表現の事前承認権が明記されていない。中国側は「スピード感が命」と主張するが、これは事業者が広告審査責任を放棄していることと同義だ。法的には事業者の事前審査義務が課されており(互聯網広告管理办法第8条)、契約上の権限がなければ義務だけが残る最悪の構造になる。

落とし穴③:違反時の賠償責任条項が存在しない

KOLがNG発言を行った場合、誰が制裁金や消費者対応コストを負担するかが不明確な契約が大半だ。行政処罰を受けた場合の費用は最大で「広告費用の5倍」(広告法第57条)に達することがあり、その分担を事前に定めないと全額が事業者負担になりうる。

発言リスク:カテゴリ別の深刻度

商品カテゴリによってライブ配信発言のリスク水準は大きく異なる。以下のグラフは規制強度と行政処罰の実績頻度を総合したリスクスコアである。

医薬品・医療機器
許可表現以外は原則NG
保健食品・
機能性食品
「疾病予防」発言で即アウト
化粧品・スキンケア
「治療」「改善」は医薬品表現
乳幼児・子ども用品
安全強調の根拠要求が厳格
食品・飲料
健康強調・最安値でリスク上昇
ファッション・雑貨
最上級・数量偽装が主な論点
旅行・体験・
サービス
実態と乖離したPR表示が問題
家電・デジタル機器
スペック誤表記が主なリスク

化粧品・スキンケアのリスクが高い理由は「外見の変化」という訴求が医薬品的な表現(「肌荒れを治す」「シミを消す」)に滑りやすいからだ。日本のコミュニケーション感覚では問題ない表現でも、中国広告法の基準では違反になるケースが頻出している。

ライブ配信における三者の法的責任比較

事業者(ブランド)
MCN(代理店)
KOL(主播)
主な義務
広告内容の事前審査、合法性担保、虚偽情報の排除
主な義務
KOL管理・配信監督・違反行為の防止・是正
主な義務
資格登録・PR表示の開示・NG表現の回避
違反時の主な処分
罰金(広告費の3〜5倍)・業務停止命令
違反時の主な処分
罰金・プラットフォーム登録抹消・ライセンス停止
違反時の主な処分
活動停止・ブラックリスト登録・プラットフォームBAN
契約で整備すべき権限
台本事前確認権・配信差し止め権・賠償請求権
契約で整備すべき権限
KOL監督義務の明記・違反時の損害分担規定
契約で整備すべき権限
NG表現リストの署名受領・違反時の返金規定

「言ったもん負け」を防ぐ:承認フローの設計

ライブ配信の表現リスクを組織的にコントロールするには、配信前の承認フローを契約・業務ルールとして整備することが最低ラインだ。以下は実装可能な標準フローである。

STEP 1
NG表現リスト提供
製品ごとにNG用語・NG主張をリスト化しMCN・KOLに事前配布。署名受領
STEP 2
台本ドラフト確認
配信48時間前に主要訴求点の台本ドラフトを受領・法務またはコンプライアンス担当がチェック
STEP 3
配信中モニタリング
現地代理店またはSNS担当者がリアルタイム視聴。NG発言確認時は即時連絡ルートを設定
STEP 4
アーカイブ保存
配信録画・チャットログを3年保存。行政調査時の証跡として不可欠
STEP 5
事後レビュー
問題発言がなかったか配信後24時間以内に確認。違反があれば動画削除依頼
実務ポイント:台本なし「自由発言」スタイルのKOLを好む場合も、NG表現リストの書面提供と署名受領は必須。「渡していない」ことが行政調査時に事業者の管理義務違反と判断される根拠になる。

経営者が今週確認すべき5つの問い

以下のチェックリストは、現在進行中のライブコマース施策に即適用できる。一つでも「いいえ」があれば、優先的に対処が必要な状態にある。

  • 1
    MCN・KOLとの契約書に、台本事前確認権と配信差し止め権が明記されているか
  • 2
    商品カテゴリ別のNG表現リストを書面でKOLに提供し、署名を受領しているか
  • 3
    PR(広告)表示義務(#广告・#合作 等)をKOLが遵守していることを毎回確認しているか
  • 4
    配信アーカイブ(動画・コメントログ)を3年以上保存する体制があるか
  • 5
    行政処罰が発生した場合の費用分担(MCN・KOL・自社)が契約で規定されているか

まとめ:「盛り上がった配信」の裏にある法的リスクを経営で制御する

ライブコマースは確かに中国市場で高い購買転換率を誇るチャネルだ。しかし、その「熱量」こそが広告規制の観点から最も危険な要素でもある。興奮した視聴者に向けてKOLが即興で繰り出す言葉の一つひとつが、広告主の法的責任を構成する。

重要なのは、ライブコマースを「現地の盛り上がり施策」として丸投げするのではなく、承認フロー・NG表現管理・契約上の権限という三つの軸を日本本社レベルで整備することだ。チャネルの成果指標(視聴数・転換率)だけでなく、コンプライアンス管理を経営の議題に組み込む時期に来ている。

関連記事:越境EC全般の広告法適用範囲については「「越境ECは広告法の対象外」は誤解」を参照。KOL起用の基礎設計については小紅書・抖音関連記事もあわせて確認してほしい。
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