80%以上
知名度が向上した日系ブランドが直面する非公式店舗の存在率
-35%
非公式店舗の安売りによる公式旗艦店の平均売上減少率
100%
シリアルコード(個別追跡番号)導入による流出ルート特定率
5営業日
アリババIPP保護システム経由での著作権侵害等による平均削除時間

1. 中国越境ECを蝕む「グレーマーケット(並行輸入・非公式転売)」の脅威

中国向けに越境EC(電子商取引)やインバウンド(訪日外国人)向けプロモーションを開始し、小紅書(RED:ライフスタイル投稿SNS)などで認知度が高まり始めると、日本企業はほぼ間違いなく予期せぬ問題に直面します。それは、自社が関与していない「タオバオ(淘宝:中国最大級のCtoCモール)の個人店舗」「拼多多(PDD/ピンドゥオドゥオ:共同購入型格安モール)の非公式ショップ」で、自社商品が公式ストアの3〜4割引きという圧倒的な安値で大量出品される現象です。

これは、主に日本国内の免税店、ドラッグストア、ディスカウントストア、あるいは国内卸売業者から、個人バイヤー(中国語で「代購:ダイゴウ」と呼ばれる買い付け業者)や並行輸入業者が商品を大量に買い占め、中国へ非公式に流通させている(グレーマーケット)のが原因です。この状態を放置すると、以下のような深刻な悪循環(価格崩壊)に陥ります。

  • 公式旗艦店(天猫国際、京東国際などの正規品店)の売上急減: 高額な公式運営費(TP:店舗運営代行会社への委託費用、プラットフォーム手数料、公式広告費)を払っている公式店が、非公式店の価格競争に敗北します。
  • TP(運営代行会社)のモチベーション低下: 売上連動の手数料がメインのTPは、非公式ストアの安売りのせいで売上が立たなくなると、ブランド運営へのリソースを割かなくなり、最終的に「天猫国際店」などの公式店からの撤退に繋がります。
  • ブランドイメージの毀損: 「いつもネット上のどこかで安売りされている二流ブランド」とみなされ、本来ターゲットである富裕層の信頼を失います。

2. なぜ日本のブランドは価格統制(控価:こうか)に失敗するのか?

日本国内市場における商習慣と、中国のプラットフォーム事情のギャップから、日本本社の海外事業部の多くが適切な価格統制(中国の実務用語で「控価:コンチャ」、または流通チャネル全体の健全化を指す「渠道治理:チュィダオジーリー」)を行えず、失敗しています。主な要因は3点あります。

① 日本国内での「流出元(サプライチェーン)」管理の甘さ

「売れればどこ経由でもよい」と考え、日本国内のドラッグストアや免税問屋に制限なく卸してしまい、それが裏ルートで中国の並行輸入バイヤーに買い叩かれているケースです。日本国内の営業部門と、中国・海外越境EC事業部門の連携が取れておらず、国内営業が「爆買い需要」として大口に売った商品が、巡り巡って中国のEC市場において自社公式ストアの強大な競合(値崩れの元凶)となっているのが現状です。

② 「並行輸入=違法ではない」という日本基準の法解釈に囚われている点

日本の法律感覚で「並行輸入自体は違法ではないため、タオバオでの安売りも法的には差し押さえられない」と静観してしまう企業が多いです。しかし中国では、ブランド側の知的財産権(商標権、著作権、特許権)の「見せ方(公式商品画像やロゴの無断二次利用)」をトリガーにした強制的な出品取り下げ手法(プラットフォームへの知的財産権訴求)が存在します。法的な違法性だけでなく、「現地のプラットフォーム独自のルール(規約)」を利用した実務的なアプローチを知らないことが失敗に繋がっています。

3. ブランド価値と利益を守る「3つの価格統制(控価)戦略」

非公式転売ショップと戦い、公式価格の整合性を保つための、実務的な3つの施策を整理します。

対策①:パッケージへの個別追跡コード(シリアルコード)の印字

日本から出荷される商品の外箱や個別パッケージに、出荷先問屋やロットを追跡できるシリアルコード(レーザー刻印やQRコードなど)を付与します。タオバオや拼多多の非公式ストアから試験的に買い上げ(テスト買い)を行い、シリアルコードから「日本国内のどの問屋・代理店が、安売り業者へ流出させたか」を特定します。その後、該当する問屋への出荷制限やペナルティを課すことで、根本からの流出(日本側での水際対策)を止めます。

注意:シリアルコードを削って販売する「削標:シャオビャオ」への対策

中国の安売り業者は、流出元の特定を防ぐため、パッケージのシリアルコード部分をカッター等で削って(中国語で「削標:シャオビャオ」と呼ばれる行為)出品することがあります。この場合、ブランドは「削り取られたパッケージは、偽物の混入リスクや品質保持の観点から消費者の安全を脅かす」として、アリババや拼多多のプラットフォーム側に「製品の安全性を損なう改ざん品(欠陥品)」として知的財産権侵害(著作権侵害や品質毀損)を申し立て、店舗ごと出品停止に追い込むことが可能です。

対策②:知財保護システム(IPP)の徹底活用による「画像無断利用」の取り下げ

非公式店舗は、自社が投資して制作した公式の商品画像、モデル写真、ロゴ、小紅書(RED)公式アカウントの投稿画像を無断コピーして商品ページを作っています。ブランド側は、アリババグループの「知的財産権保護システム(IPP)」や各プラットフォームの公式通報窓口を活用し、「商標権の侵害」や「著作権(商品画像・説明用クリエイティブ)の侵害」として、それらの商品を一斉に取り下げる「オンライン控訴」を行います。

対策③:公式ストア限定の「セット販売」や「差別化パッケージ」

単体の商品では価格比較エンジン(価格サーチツール)で非公式ショップに負けてしまうため、公式ショップ専用の「オリジナルギフトボックス」「限定おまけセット(買一送一:マイイーソンイー=1個買えば1個プレゼント、など)」「中国限定パッケージ」を開発します。これにより、単に安さを求める消費者ではなく、「公式だから得られる本物のサービスと限定価値」を求めるユーザーを囲い込みます。

4. 中国主要プラットフォーム別:グレーマーケット対策の実務対応力

各プラットフォームによって、非公式転売に対する取締りのしやすさや、ルールが異なります。

ECプラットフォーム 非公式店舗の発生リスク 知財申告(IPP)の難易度 対策の実務ポイント
タオバオ (Taobao/淘宝) 極めて高い(個人店が自由に安売り可能) 中(知財・著作権の証拠提出で削除可能) 「商品画像の無断転載」をトリガーにして、毎週水曜などの定例で削除申請を回す監視体制を作る。
拼多多 (PDD/ピンドゥオドゥオ) 非常に高い(共同購入モデルで価格破壊が起きやすい) 高(プラットフォーム側が低価格を優先・保護する傾向がある) 「商標権侵害」および「偽造品疑い」を強く訴求。シリアルコードを削られた「削標品」の排除を徹底。
天猫(Tmall / 天猫国際) 低(入店審査があるため公式・公認代理店のみ) 低(ブランド公式が完全にコントロール可能) 提携する公式運営代行会社(TP)との緊密な連絡。他PFで安売りを見つけた際の情報連携を行う。
小紅書 (RED/レッド) / 抖音 (Douyin/ドウイン) 中(インフルエンサーが非公式店舗のリンクを貼るリスク) 中(プラットフォームのコンテンツ管理部門と連携) KOL(インフルエンサー)に商品プロモーションを依頼する際、公式ショップの店舗リンク指定を契約上義務付ける。

5. 【実務ステップ】価格統制(控価)を成功させるための4つの手順

STEP 1: 日本側における「ブランド商標」の中国での完全登録

中国の知財保護システム(IPPなど)を利用するためには、中国国内での商標登録(特に自社製品をカバーする正しい商品区分)が完了している必要があります。まだ登録していない場合は、第三者による先回り登録(商標トロール)を防ぐためにも、今すぐ中国国家知識産権局(CNIPA)へ申請してください。

STEP 2: 国内問屋との契約書に「越境・海外流出禁止」条項を追加

日本の問屋・代理店へ販売する際の取引基本契約書に、「中国または越境EC市場への直接・間接を問わない並行輸出の禁止」を明記します。違反しグレーマーケットへの流出が発覚した場合の取引停止、または違約金・損害賠償請求を行える日本国内での法的基盤を作ります。

STEP 3: 専門の「控価代行会社(流通管理ベンダー)」の起用

自社で毎日タオバオや拼多多の数万におよぶ出品を手作業でパトロールし、アリババIPPへ申請し続けるのはリソース上不可能です。中国現地には、AI画像検出を用いて非公式の安売り店舗を24時間監視・特定し、自動で取り下げ手続き(訴訟申請)を代行する「渠道治理(流通コントロール)専門会社」が存在します。これらのベンダーと月額契約(目安:月15万〜30万円程度)を結び、常に自動の監視網を張っておくことが極めて実務的です。

STEP 4: 公式プラットフォーム(天猫等)での価値保証プロモーション

非公式店舗は「本物かどうか疑わしい」という最大の弱点を持っています。公式ショップでは、偽造防止ラベル(スマホでスキャンすると正規品認定が出るQRコード付きの防偽シール)の導入を大々的にアピールし、「公式旗艦店以外で買ったものは品質・安全性を一切保証しない」という警告文を商品詳細ページに常駐させ、消費者に直接教育します。

6. よくある質問(FAQ:実務における疑問点)

Q. タオバオの個人商店をアリババのIPP(知財システム)に訴えた場合、本当に削除されますか?

はい。商品画像(公式が撮影・加工したと証明できるPSDデータや未加工のRAWデータなど)を事前に権利登録しておけば、相手は「画像の著作権侵害」として対抗できず、出品は強制削除されます。早ければ3〜5営業日、通常でも1〜2週間以内に対処されます。ただし、相手が画像を使わず文字だけで「日本直郵(日本から直送)」として出品している場合は、商標権(ロゴの無断使用)や他の訴求方法に切り替えるテクニックが必要です。

Q. 日本国内で売上(卸売)が立っていれば、中国での安売りは放置していても良いのではないでしょうか?

短期的には日本国内で売上が上がっているように見えますが、安売り(値崩れ)がネット上に定着すると、ブランド価値が数ヶ月で毀損されます。最終的には中国の消費者が「安っぽい商品」と認知して離れ、結果として日本国内での個人バイヤーや問屋の仕入れ(買い付け)も同時に急ストップします。長期的な自社ブランド資産を守るためには、絶対に放置してはいけません。

Q. 流通コントロール(控価)にはどれくらいの期間とコストがかかりますか?

対策開始から市場価格が安定するまで、およそ3ヶ月〜半年程度かかります。コストは、追跡用シリアルコード印字のシステム構築初期費用に加え、現地の監視代行ベンダーへの委託費用として月額固定で15万〜30万円程度を見込むのが、実務上の標準的な予算目安となります。

⚖️

中国越境ECにおいてブランドイメージを損なう「不適切な広告表現」や、KOLの違法訴求を防止したい場合は、

商品ページやプロモーション素材の法務・広告法審査体制(自社監査)を同時に構築することが急務です。

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