翻訳≠チェック
言語変換と法的審査は別作業
混同が最大のリスク要因
3〜5倍
違反時の罰金(広告費の倍率)
「翻訳会社に任せた」は免責にならない
日本語元稿
そもそも日本向けに作られた表現
日本では合法でも中国では違反
1. 翻訳と広告法チェックはなぜ別物なのか
翻訳者の仕事は「日本語の意味を正確に中国語で再現すること」です。翻訳の品質評価軸は「原文の意味が伝わっているか」「自然な中国語か」「誤訳がないか」であり、中国の法令への適合性ではありません。
一方、広告法コンプライアンスチェックは「その表現が中国の法令・規定・プラットフォームポリシーの下で使用を許可されているか」を判定する作業です。判定に必要なのは中国広告法・薬品管理法・食品安全法・NMPAガイダンスなどの法令知識と、実際の執行事例・プラットフォームの審査実態の把握です。
問題が起きる典型的なプロセス
- 日本の本社マーケティング部が日本向けコピーを作成(日本の景表法に適合)
- その日本語原稿を中国語に翻訳するよう翻訳会社に依頼
- 翻訳会社は正確な中国語訳を納品(翻訳業務として完結)
- 翻訳された中国語をそのまま天猫出品・小紅書投稿・広告に使用
- → 日本では合法な表現が中国広告法に抵触し、プラットフォームから指摘・削除・罰金
2. 実例:正確な翻訳でも違法になるケース
以下は実際によく見られるパターンです。翻訳は正確ですが、中国広告法の観点から問題のある表現です。
ケース① 最上級・絶対的表現
日本語原稿
「日本No.1の保湿成分配合」「最高品質の素材を使用」
中国語翻訳(正確な訳)
「日本No.1的保湿成分配方」「使用最高质量的原材料」
違反中国広告法第9条:「最高」「第一」「最佳」などの最上級表現は原則禁止。「No.1」の数値も客観的根拠と証明書類が必須で、未提出のまま使用すれば違反。
ケース② 効能・効果の表現(化粧品)
日本語原稿
「シワを改善し、肌を若返らせる」「メラニンの生成を抑え、シミを防ぐ」
中国語翻訳(正確な訳)
「改善皱纹,让肌肤焕然年轻」「抑制黑色素生成,预防色斑」
違反NMPAの化粧品効能評価規定(2021年)では「改善皱纹(シワ改善)」「祛斑(シミ除去)」は特定効能に分類され、第三者評価機関の試験データが必要。未提出での表示は違反。
ケース③ 健康食品・サプリの効能表現
日本語原稿
「腸内環境を整え、免疫力をサポート」「毎日の健康維持に」
中国語翻訳(正確な訳)
「调节肠道环境,支持免疫力」「助力日常健康维护」
違反一般食品(普通食品)が「免疫力」「腸内環境の調節」などの機能性を表示することは食品安全法・広告法で禁止。保健食品(機能性食品)の認証を取得し、認可された効能のみ表示可能。
ケース④ 医療的・科学的効果の暗示
日本語原稿
「皮膚科医が推薦」「臨床試験で効果を確認」「アレルギーテスト済み」
中国語翻訳(正確な訳)
「皮肤科医生推荐」「临床试验证实有效」「经过过敏测试」
違反または要注意「医師推薦」は医療機関・医療者の名義・形象を利用した広告として規制対象。「臨床試験」「過敏測試(アレルギーテスト)」は虚偽・誇大広告と認定されるリスクがあり、中国での実施記録・証明書類が必須。
ケース⑤ 比較表現
日本語原稿
「他社製品比2倍の保湿力」「従来品より30%成分配合量アップ」
中国語翻訳(正確な訳)
「与其他产品相比,保湿力提升2倍」「与传统产品相比,成分含量增加30%」
要注意他社を特定した比較広告は厳格な条件のもとでのみ許可。「他社製品比」の比較根拠データが必要で、根拠不十分なら不正競争防止法にも抵触しうる。
3. 翻訳者が広告法をチェックできない構造的理由
優秀な翻訳者でも、以下の理由から広告法リスクを検出することは難しい場合があります。
| 問題 | 内容 |
|---|---|
| 法令知識の専門性 | 中国広告法・NMPA規定・食品安全法・プラットフォームポリシーは定期的に改正される。翻訳者が最新法令をすべて把握し続けることは現実的に困難。 |
| カテゴリ別の特別規制 | 化粧品・食品・医薬品・乳幼児用品など、カテゴリごとに異なる特別規制がある。翻訳会社はカテゴリ別の規制体系を持っていないことが多い。 |
| プラットフォーム審査ルール | 天猫・小紅書・抖音はそれぞれ広告法以上に厳しい独自ルールを持つ。これらは公式発表されず、実務的な運用実態を知っていないと判断できない。 |
| 業務定義の問題 | 翻訳会社との契約は「翻訳サービス」であり、広告法チェックは含まれていない。問題が起きても「翻訳業務は完了した」として法的責任は負わない。 |
| 元稿の問題を指摘しない | 日本語元稿が日本法で合法な場合、翻訳者は元稿の表現内容に疑問を持たず、そのまま翻訳する。「日本でOKなら大丈夫」という先入観も生まれやすい。 |
4. 必要なのは「チェックファースト」の発想
理想的なフローは「翻訳前に日本語原稿を広告法の観点で見直す」ことです。翻訳後にチェックして大量の修正が発生するより、元稿段階で表現を整理しておく方が効率的で、修正コストも下がります。
推奨する制作フロー
- ① 日本語原稿の作成:日本向けコピーをそのまま使わず、中国向けに新たに設計する意識を持つ
- ② 中国広告法・カテゴリ規制の観点で元稿をレビュー:問題のある表現を洗い出し、代替表現に変更する
- ③ レビュー済み原稿を中国語に翻訳:翻訳精度に専念できる状態にする
- ④ 翻訳後の最終チェック:翻訳過程でニュアンスが変わり問題表現が生まれていないかを確認
- ⑤ プラットフォーム審査基準の確認:出稿先(天猫・小紅書・抖音等)の独自ルールへの適合確認
5. 翻訳会社への依頼時に伝えるべきこと
翻訳会社に依頼するとしても、広告法チェックを「翻訳に含まれる」と前提にせず、明示的に確認・依頼することが重要です。
翻訳会社への確認・依頼事項
- 「中国広告法・商品カテゴリの特別規制に基づいたチェックを翻訳とセットで行えるか」を明示的に確認する
- 「広告法チェックは別サービスとして提供しているか」を聞き、対応できない場合は専門家(法律事務所・エージェンシー)に別途依頼する
- チェックを担当するのが「法令知識を持つ専任担当者か」「翻訳者兼任か」を確認する
- 「違反の可能性がある箇所はどう報告するか」「修正案の提示はあるか」を事前に合意する
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法律事務所・専門エージェンシー・翻訳会社のチェック費用比較と、依頼先の選び方については別記事で詳しく解説しています。